方法論的個人主義

方法論的個人主義とは

方法論的個人主義とは、社会全体の構造や変化を、個々の人間の意思決定の集積として理解しようとする考え方です。これは、社会全体を一つの有機体として捉え、個人の行動をその一部として解釈する「方法論的集団主義」とは対照的な立場にあります。

方法論的個人主義の定義

方法論的個人主義は、社会現象を分析する際に、まず個人に焦点を当てます。個人の行動原理や意思決定のプロセスを理解することで、社会全体の動きを説明しようとします。この考え方は、「原子論的個人主義」とも呼ばれることがあります。

方法論的個人主義の最も極端な立場では、「社会全体」という概念自体を否定し、社会は単に個人の集合に過ぎないと捉えます。これは、複雑な現象をより単純な要素に分解して理解しようとする「還元主義」の一種と見なすこともできます。

歴史

方法論的個人主義は、19世紀後半のドイツ・オーストリアにおける経済学の方法論争の中で、カール・メンガーによって提唱されました。メンガーは、個人の行動を基礎として経済学を構築することの重要性を主張し、ドイツ歴史学派の方法論を批判しました。

その後、シュンペーターが社会科学の方法論として方法論的個人主義を明確に位置づけました。これにより、政治思想としての個人主義と、社会科学の方法論としての個人主義が区別されるようになりました。社会学においては、マックス・ウェーバーが方法論的個人主義を導入したとされていますが、彼のそれは独特なものであることには注意が必要です。

シュンペーターの考えは、ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス、フリードリヒ・ハイエク、カール・ポパーらに引き継がれましたが、彼らは集産主義に強く反対していたため、政治的個人主義との区別は必ずしも明確ではありませんでした。

経済学における方法論的個人主義

新古典派経済学は、基本的に方法論的個人主義の立場を取っています。ミクロ経済学の代表的な理論であるアロー＝デブローモデルでは、個人は自身の効用関数を持ち、予算制約の下で効用を最大化するように行動すると仮定されています。これは「消費者行動の理論」として知られています。

この考え方は、分析方法としては合理的選択理論とも呼ばれ、近年では政治学にも取り入れられています（公共選択論）。

しかし、このような考え方には、

1. 個人の効用関数は社会や周囲の人々の影響を受けて形成される（方法論的全体主義）
2. 人間の選好や効用は必ずしも合理的ではない
3. 人間は最適化を試みるものの、合理性の限界に阻まれる

といった批判があります。(1)はヴェブレン、(3)はハーバート・サイモンの限定合理性などにその原型を見ることができます。

社会学における方法論的個人主義

社会学においては、個人の行動が社会構造に与える影響や、社会的な相互作用が個人の行動に与える影響を分析する際に、方法論的個人主義が用いられます。ただし、社会学における方法論的個人主義は、経済学におけるそれとは異なり、個人の行動を完全に合理的なものとして捉えるわけではありません。

他分野における方法論的個人主義

ジョーン・ザイマンは、方法論的個人主義が社会生物学や進化心理学にも内在していると指摘しています。これらの分野では、個体の生存戦略や繁殖行動を、遺伝子レベルでの個体の利益最大化として解釈することがあります。

関連概念

合理的選択理論
ゲーム理論
囚人のジレンマ
効用
選好
公共選択論
* 政治経済学

方法論的個人主義は、社会現象を理解するための重要な視点を提供しますが、その適用には注意が必要です。個人の行動だけでなく、社会構造や文化的な要因も考慮に入れることで、より包括的な理解が得られるでしょう。

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