施明徳

施明徳（し めいとく）

施明徳（1941年1月15日 - 2024年1月15日）は、台湾の政治家であり、民主化運動における重要な人物の一人です。戒厳令下の台湾において、中国国民党に対抗する党外勢力の中心的な存在として活動し、民主進歩党（民進党）の第6代主席も務めました。彼の愛称「ノリ」は、名前の「徳」の日本語読みから来ています。

生い立ちと軍歴

1941年、高雄市で生まれた施明徳は、1959年に陸軍砲兵学校に入学、1961年に卒業後、陸軍少尉に任官しました。小金門で砲兵監測官を務めた後、1962年に「台湾独立連盟案」に関与した疑いで反乱罪に問われ、逮捕されました。1964年には無期懲役と公民権終身剥奪の判決を受け、政治犯収容所である緑島感訓監獄に15年間収監されました。

党外勢力としての活動

1977年に釈放された後、施明徳は黄信介の依頼を受け、「台湾党外勢力選挙支援団」の幹事長に就任。呂秀蓮や姚嘉文らの選挙活動を支援し、「党名のない党」構想のもと、各地の党外勢力の組織化を推進しました。1978年12月には、許信良、張俊宏、林義雄、姚嘉文らと共に「五人小組」を結成。このグループは、後に美麗島グループの中核となり、党外運動の発展に大きく貢献しました。

1979年1月には、中国国民党からの迫害を受けている政治活動家を擁護するため、台湾で初めてとなる政治デモを主導しました。同年5月には、美麗島雑誌社の代表（総経理）にも就任するなど、精力的に活動を展開しました。

美麗島事件と再度の投獄

1979年12月10日、世界人権デーに合わせ、美麗島グループが高雄市で計画した集会が、警察との衝突に発展（美麗島事件）。当局はこれを機に党外活動家の一斉逮捕を行い、施明徳も26日間の逃亡生活の末に逮捕されました。1980年4月には、軍事法廷で2度目の無期懲役判決を受けました。しかし、投獄中も政治的信念を曲げることなく、公判で「台湾は独立している」と主張したり、ハンガーストライキを行うなど、抵抗を続けました。

釈放と政界復帰

1987年7月の戒厳令解除に伴い特赦を受けましたが、無罪を主張して拒否。1990年5月20日、李登輝総統が美麗島事件の判決無効を宣言したことで釈放され、自由の身となりました。その後、米国議会での講演や、民進党主席選挙への立候補を経て、1992年には立法委員に当選。その後、第3期、第4期も務めました。

民進党主席として

1994年5月には、民進党の第6代主席に就任しました。在任中には、米国で台湾独立の立場を表明したり、民進党駐米事務所を開設したり、統一派の新党との「大和解」を呼びかけるなど、活発な外交活動を展開しました。しかし、金門・馬祖地区の大陸への返還を唱えるなど、物議を醸す発言もありました。

その後

2000年には民進党を離党し、2002年には高雄市長選挙に無所属で出馬しましたが落選しました。その後、米国ジョージ・メイソン大学客員教授に就任。2006年には、陳水扁総統の金銭スキャンダルに抗議する「倒扁運動」を主導しましたが、病気により運動中に手術を受けています。2015年には総統選挙への出馬を表明しましたが、要件を満たせず選挙運動を終了しました。

死去

2024年1月15日、肝臓癌のため台北市内の病院で死去。83歳でした。

著作

『囚室之春』

参考文献

若林正丈 著『台湾 変容し躊躇するアイデンティティ』
* 伊藤潔 著『台湾』

もう一度検索