施薬院全宗

施薬院全宗（やくいん ぜんそう）

施薬院全宗は、戦国時代から安土桃山時代にかけて、日本の医療界で重要な役割を果たした医学者であり、豊臣秀吉の側近としても知られています。全宗は、丹波氏という渡来系の家系に生まれ、その背景には、多くの医者を輩出した伝統があります。彼の号は徳運軒で、正式には徳運軒全宗とも称されます。

生涯の概要

全宗は、大永6年（1526年）に医心方を著した名医、丹波康頼の二十世の末裔として誕生しました。彼の祖父と父は共に権大僧都法印の地位にありましたが、幼少期に父を亡くしたことにより、彼自身は僧籍に入ることになります。その後、比叡山薬樹院の住持として生活していましたが、元亀2年（1571年）に織田信長の命によって比叡山が襲撃された際に還俗し、医師としての道を歩み出します。

全宗は曲直瀬道三に師事し、漢方医学を学び、羽柴秀吉に見出されて侍医として仕官しました。この時期には、比叡山の復興にも取り組み始めます。天正10年（1582年）に信長が本能寺の変で亡くなると、全宗は秀吉の支援のもと、荒れ果てた比叡山の再建に尽力しました。

さらに、天正13年（1585年）、全国的な大飢饉と疫病の流行が続く中、施薬院の復興を願い出て、施薬院使に任命され、従五位下に叙されるとともに昇殿を許されました。この年、彼は施薬院という名称を正式に使用し始めました。施薬院は奈良時代から続く医療機関であり、全宗はその再興を果たし、すべての人々に医療を提供することを目指して活動しました。

施薬院の活動と信頼

施薬院全宗は、天正13年に秀吉から200石の知行を与えられ、さらに450石の加増を受け、秀吉の信任を厚く得ることとなります。その信頼の深さを伺わせる記録も残されており、全宗の言葉は必ず実現されるとされました。彼の息子である施薬院秀隆も、秀吉から特別な偏諱を与えられるなど、一族として重用されました。

また、天正15年（1587年）に発表されたバテレン追放令は全宗の筆によるものとされており、切支丹追放などにも力を入れていました。この時期、彼は豊臣氏番医のトップとして医療体制を整備し、さらに丹波桑田郡内での石高の加増が行われました。

交渉役や晩年

天正18年（1590年）には、小田原の役に際して、伊達政宗への勧告使や佐竹義重との交渉を担当しました。また同年、彼の嫡男である秀隆が病気で亡くなったため、曲直瀬氏の家系を守るために養子を迎えました。この養子は後に「宗伯」として全宗の直系を継いで行くこととなり、破解の医術の伝授と家系の存続に貢献しました。

全宗は慶長元年12月10日（1597年1月27日）に逝去したとされていましたが、後の研究によって慶長4年12月10日（1600年1月25日）に亡くなったことが明らかとなり、享年74歳と伝えられています。彼は京都十念寺に葬られました。

施薬院の読み方

全宗に関連する研究が進む中で、施薬院の正しい読み方が見直されています。古文書によると、施薬院は「ヤクイン」と読むのが正式であり、過去には誤って「セヤクイン」と読まれていた実態があることが明らかになっています。江戸時代後期の文献にもこの読みが記載されており、古来からの確証を得た形となっています。

このように、施薬院全宗は、戦国時代において医療を復興し、豊臣政権で特別な存在として活躍した重要な人物であったことがわかります。

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