施薬院

施薬院：古代日本の社会福祉を支えた施設

施薬院は、奈良時代に設置された令外官で、庶民の医療と福祉を担う重要な施設でした。その起源は、聖徳太子が四天王寺建立と同時に創設したとの伝承があり、仏教の慈悲思想に基づいた社会福祉のはしりとして位置づけられています。当初は薬草栽培と医療を目的とした施設でしたが、時代とともにその役割は拡大し、孤児の保護など幅広い福祉活動を行うようになりました。

光明皇后と施薬院の隆盛

天平2年（730年）、光明皇后の発願により、悲田院とともに施薬院が正式に創設されました。光明皇后は、施薬院の運営に深く関与し、自ら病人の看護にあたるなど、その活動は庶民の生活に大きな影響を与えました。諸国から献上された薬草が無料で貧民に施され、東大寺正倉院に保管されている薬草も施薬院に供給されていたとされています。

施薬院は、別当、院使、判官、主典、医師などの職制を備えた組織的な運営が行われていました。延喜式にもその体制が記載されており、官営施設としての性格が強かったことがわかります。平安時代に入ると、藤原氏が光明皇后の実家という関係から施薬院の運営に介入するようになり、食封の寄進や職員の推薦などを通じて、その勢力を及ぼしました。しかし、藤原氏の介入は必ずしも施薬院の運営にとって好ましいものではなく、一方で施薬院の運営には丹波氏など有力な一族も関与していました。

中世の衰退と近世の復興

平安時代以降、施薬院は徐々に衰微し、中世には形骸化していく傾向が見られます。院司は丹波氏や和気氏が世襲するものの、実質的な活動は衰え、職位は名目的なものとなっていきました。しかし、戦国時代には丹波氏の後裔である全宗が豊臣秀吉に仕え、正親町天皇から勅命を受けて施薬院使に任ぜられ、施薬院は復興することになります。全宗は「施薬院」を姓として以降、江戸時代には施薬院氏が院使を世襲しました。

施薬院と現代

現在、大阪市天王寺区にある勝鬘院愛染堂が施薬院跡地とされ、四天王寺病院が施薬療病院としての役割を継承しています。施薬院は、古代日本の社会福祉制度を考える上で非常に重要な施設であり、その歴史と役割を理解することは、現代社会を考える上でも重要な視点となるでしょう。 施薬院は、単なる医療施設にとどまらず、貧困者や孤児の保護、社会全体の福祉向上に貢献した施設であったと言えるでしょう。その活動は、現代の福祉制度の礎を築いた重要な歴史的遺産であり、その精神は現代社会においても継承されるべき価値観です。

参考文献

『国史大辞典』（吉川弘文館）「施薬院」「施薬院使」（執筆：水野柳太郎）
『日本史大事典4』（平凡社、1993年（平成5年）、ISBN 4582131042）「施薬院」（執筆：宗田一）

関連項目

悲田院
光明皇后
* 施薬院全宗

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