日曜娯楽版

日曜娯楽版

『日曜娯楽版』（にちようごらくばん）は、第二次世界大戦終結から間もない激動期に、NHKラジオ第1放送で人気を博した画期的なバラエティ番組です。1947年10月12日に放送を開始し、毎週日曜日の夜7時30分から30分間、リスナーに笑いと刺激を届けました。それまで三木鶏郎が手掛けていた『歌の新聞』の後継番組としてスタートし、丸山鉄雄のプロデュースのもと、三木鶏郎が企画、出演、作曲など番組の核となって牽引しました。

番組を彩った顔ぶれと「冗談音楽」

番組の最大の特色は、三木鶏郎が生み出した「冗談音楽」というスタイルにありました。これは、単なる音楽番組ではなく、歌と歌の間に短いコントや風刺劇を挟み込む構成で、当時の世相や政治をユーモアを交えながら鋭く批評するものでした。このコーナーは絶大な人気を呼び、番組を代表する看板となりました。三木鶏郎は、ジャズミュージシャンのジョージ川口、小野満、鈴木章治らと共に「三木鶏郎楽団」を結成し、この「冗談音楽」を具現化しました。

番組には多彩な出演者が名を連ねました。歌手の楠トシエ、中村メイ子をはじめ、喜劇俳優の三木のり平、丹下キヨ子、有島一郎、太宰久雄、小野田勇、千葉信男、河井坊茶、逗子とんぼ、左とん平など、後の芸能界で活躍する面々が集結。女優の水の也清美もレギュラー出演していました。

番組の構成作家陣もまた、才能豊かな書き手たちでした。三木鶏郎自身に加え、後に「冗談工房」（トリローグループ）を結成することになるキノトール、能見正比古、永六輔、神吉拓郎、野坂昭如、飯沢匡、伊藤アキラらが筆を振るいました。作曲家としては、神津善行、いずみたく、桜井順、越部信義、嵐野英彦らが楽曲を提供し、番組の音楽面を支えました。

『日曜娯楽版』は投稿番組でもあり、ここから新たな才能が発掘されました。当時学生だった永六輔は、コントを投稿する常連リスナーでした。彼の才能に目をつけた三木鶏郎からスカウトされ、番組の構成作家となったことが、永六輔がプロの放送作家としてのキャリアを始める大きなきっかけとなりました。

ヒット曲と番組の終焉

番組からは多くの人々に親しまれる楽曲も生まれました。特に、1950年10月に発表された森繁久弥、丹下キヨ子、三木鶏郎が歌う『僕は特急の機関士で』は大きなヒットとなりました。また、楠トシエが歌った『毒消しゃいらんかね』や『田舎のバス』なども有名です。

しかし、番組の人気を支えた世相風刺や政治批判は、次第に過激化していきました。その内容は社会的な議論を巻き起こすこともあり、独立回復直前の1952年6月8日、番組は突然の打ち切りを迎えます。番組終盤には、政府からの干渉によって内容の一部がカットされることも少なくなかったとされています。翌週からは番組名を『ユーモア劇場』と改め、風刺の度合いを弱めて放送を続けましたが、1954年には再び風刺が問題視され、二度目の打ち切りとなりました。

短命に終わった番組ではありましたが、『日曜娯楽版』は、戦後日本の自由な気風の中で生まれ、多くのクリエイターやパフォーマーを育て、そして時代の波に翻弄されて消えていった、日本のラジオ史において特異な輝きを放つ存在と言えるでしょう。

関連情報

関連書籍: 井上保 著『「日曜娯楽版」時代 - ニッポン・ラジオ・デイズ』（晶文社、1992年）
主な楽曲:
『日曜娯楽版のテーマ』（作詞・作曲 三木鶏郎）
『冗談音楽のテーマ』（作詞・作曲 三木鶏郎）
『僕は特急の機関士で』（歌：森繁久弥・丹下キヨ子・三木鶏郎）
『毒消しゃいらんかね』（歌：楠トシエ）
* 『田舎のバス』（歌：楠トシエ）

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