日本の学校制服

日本の学校制服は、その多くが学校によって指定されています。公立中学校における制服の着用率は98.4%と非常に高く、ほとんど全ての学校で制服が採用されているのが現状です。制服と私服の自由選択制の学校はごく少数で、私服での通学が認められている学校はさらに少なくなっています。

制服の種類

男子生徒用の制服は、主に詰襟学生服（学ラン）かブレザー、女子生徒用はセーラー服かブレザーに大別されます。学校によっては、男女問わず「学生服」と呼ぶこともあり、小学生向けには「学童服」という呼び名も存在します。近年では、ジェンダーレスの観点から、性別に関わらず制服を選べる制度が導入される学校が増えています。女子の制服でもスラックスの選択が可能になったり、男子がスカートを着用できる高校も登場しています。

公正取引委員会の調査によると、男子生徒の制服は詰襟が76.6%、ブレザーが23.1%であり、女子生徒の制服はセーラー服が54.6%、ブレザーが35.8%、イートン服が9.3%となっています。制服の仕様は学校ごとに定められていますが、一部の自治体では制服の仕様を共通化することで、転校の際の買い替えを不要にする取り組みも行われています。

また、学校指定の制服は在籍証明の意味合いがあるため、部外者への販売は禁止されている場合がほとんどです。

制服の仕様

学生服（学ラン、詰襟）・学生帽
主に男子用で、中学校では主流ですが、高等学校ではブレザーが主流になりつつあります。日本被服工業組合連合会が定めた「標準型学生服」を採用している学校も多いです。
ブレザー
高等学校で主流の制服で、新設校やモデルチェンジで採用されることが多いです。学校ごとに仕様は異なり、女子用にはリボンを合わせることが一般的です。スラックスを組み合わせることも可能で、一部にはスラックスを標準とする学校も存在します。
セーラー服
女子用の制服で、ボトムスはスカートが一般的ですが、一部の学校では冬期にスラックスを選択可能です。また、冬期のスラックス着用を義務付けている学校もあります。海外の学校では男子の制服にセーラー服を採用している例も存在します。
吊りスカート
本来は女子小学生の制服として多く採用されていますが、男女関係なく着用できる小学校も存在します。中学校では、モデルチェンジに伴いサスペンダーが取り外し可能になるなど、仕様が変化しています。
イートンジャケット
ジャンパースカート・ベスト

主なメーカー

日本の学生服メーカーは岡山県に本社を置く企業が多く、地場産業となっています。大手4社で市場の70%以上を占めているとされています。

菅公学生服（カンコー学生服）
トンボ (企業)（トンボ学生服）
明石スクールユニフォームカンパニー（富士ヨット学生服）
瀧本（スクールタイガー）- トンボの子会社

その他にも、キンパラ (企業)などのメーカーがあります。

歴史

近代初期

明治時代 - 昭和初期
1879年（明治12年）に学習院で詰襟の制服が採用されたのが始まりです。当初は服装を競う風潮があったため、制服が導入されました。その後、1885年（明治18年）に東京師範学校女子部で洋装が導入され、1886年（明治19年）には帝国大学で金ボタン付きの詰襟制服が採用されました。明治30年代には、女学生の間で海老茶色の袴が定着しました。

1920年（大正9年）には、平安高等女学校（現：平安女学院）でセーラー服が採用されました。

太平洋戦争 - 昭和中期

1940年（昭和15年）には、男子は国民服、女子はもんぺ姿が標準となりました。1950年（昭和25年）に詰襟やセーラー服が復活しました。

戦後、合成繊維の需要拡大のため、政府は合成繊維学生服を推進しました。しかし、当時の保護者や労働組合などの反対もあり、制服は標準服または推奨服と位置づけられた学校もありました。

1960年代 - 1970年代

1960年代後半にブレザー制服が登場し、1970年代後半には変形学生服が流行しました。

1980年代 - 1990年代

1980年代半ばには、私立女子校でブレザーとタータンチェックのスカートの制服が人気となりました。1990年代にはデザイナーズ制服が話題となり、制服の着崩しファッションが流行しました。

1985年には「おニャン子クラブ」が「セーラー服を脱がさないで」でデビューし、以降、アイドルグループの衣装として制服を模したものが多く使われるようになりました。

1990年代には、使用済みの制服や下着を販売するブルセラショップが社会問題化しました。一方で、再生ペット素材を使った制服も登場しました。

2000年代 - 2010年代

2000年代半ばからは落ち着いたデザインで機能的な制服が好まれるようになり、2010年代にはデザインのバリエーションが豊富になりました。

制服のファッション化は、リボンなどの小物を変えることでオシャレを楽しめるため、私服よりも安価にオシャレを楽しめるという意見もあります。

近年の制服のファッション化は海外でも注目されており、フランスの雑誌やタイのファッションイベントでも取り上げられています。2018年には、銀座にある公立小学校が高級ブランドの制服を導入したことで議論を呼びました。

2020年代

令和に入り、LGBTなどの影響もあり、多様性に配慮した「ジェンダーレス制服」の採用が進んでいます。

多様化

2010年代後半から2020年代にかけては、制服自由化や男女の区別を問わない「ジェンダーレス制服」が導入されるなど、制服の多様化が進んでいます。以下にその例を挙げます。

制服選択制の導入
柏市立柏の葉中学校や戸田市立戸田東中学校など、生徒が性別に関係なく制服を選べる制度を導入する学校が増えています。
ジェンダーレス制服の導入
岐阜県教育委員会は、公立高校の制服の男女区別をなくし、性別に関わらずスラックスかスカートを選択できることを明記するよう要請しました。
制服選択制の広がり
みやま市立瀬高小学校や熊本県菊池郡大津町の小学校・中学校など、制服選択制を導入する学校が増えています。
ブレザーの採用
犬山市では、市内の全中学校でブレザーを導入し、生徒が詰襟やセーラー服とブレザーを選択できるようにしました。
ジェンダーレス制服への移行
滋賀県野洲市では、中学校の制服を男女兼用のブレザーに変更し、スラックスとスカートを選択できるようにしました。
コロナ禍での変化
新型コロナウイルス感染症対策をきっかけに、制服選択制を導入した中学校もあります。
スラックスの導入
桜蔭中学校・高等学校では、スラックスの継続着用を希望する声に応え、制服のスラックス着用を開始しました。諫早市立西諫早中学校では、新入生からスカートとスラックスの選択制を導入しました。

制服会社によると、女子のスラックス導入だけでなく、男女兼用のポロシャツを生産するようになり、ジェンダーレス制服が増えています。

制服に関する諸問題

制服の再導入

東京都立高校では、私服通学だった学校が制服を復活させる動きが見られます。これは「管理教育の復活」と捉える論調もあります。志願者数減少を理由に、制服を再導入した学校もあります。

新型コロナウイルス感染症流行の影響

コロナ禍では、制服の代わりに私服を認める高校や、制服の見直しを求める動きもありました。

入学式に間に合わない納入

2022年には、学生服メーカーのミスで、入学式に制服が間に合わないという問題も発生しました。

制服の良い点・悪い点

2016年のアンケートでは、制服の必要性を支持する意見が多く、良い点としては「家庭の経済状況の差が服装に表れにくい」という点が挙げられました。一方で、悪い点としては「転校・成長すると買い直さなければならない」「過ごしやすい服装で学校生活を送れない」といった意見が多くありました。

制服の購入には経済的な負担があり、廃棄されるという課題もあります。このため、譲渡や中古品売買も行われています。また、制服は気温の変化に対応しづらく、スカート着用による寒さから体調を崩す生徒もいます。体調不良を理由に、カーディガン着用を認めない学校もあります。

下着やマフラーの使用に関する校則が「ブラック校則」として問題視されることもあります。また、制服の素材が肌に合わず、アトピー性皮膚炎を悪化させる生徒もいます。感覚過敏が理由で、制服を着ることに苦しむ生徒もいます。制服メーカーでは、感覚過敏に配慮した制服も開発されています。

制服に関する問題点として、校区外での制服着用が義務付けられていることや、制服から学校が判明し苦情が寄せられること、夏場の制服で下着が透ける問題なども挙げられます。

制服に関わる被害・犯罪

調査によると、制服を着用している場合、体を触られる被害に遭う確率が高いという結果が出ています。スカートタイプの制服が性的アイコンとして扱われることも問題視されており、学校制服を肯定する男性によって女子中高生が犯罪被害に遭うことを助長しているのではないかという意見もあります。

スカート丈を短くすると盗撮の危険性が高まることも指摘されています。制服の種類から身元が判明しストーカー被害が発生したり、制服に氏名を刺繍することで犯罪被害に遭う危険性も指摘されており、学校側も対策を取っています。

制服業界との関係

学校が特定の制服メーカーを指定している割合は21.3%ですが、販売店が特定のメーカーしか扱わないため、事実上指定されている状態になっている学校もあります。制服のモデルチェンジは、メーカーにとって大きなビジネスチャンスです。しかし、制服の価格カルテルなど、流通の不透明さも問題となっています。

近年では、安価な製品の導入や制服廃止への反対も起きています。制服価格は上昇傾向にありますが、学生人口の減少から客単価を上げる業界の思惑もあると指摘されています。

脚注

詳細な情報や関連文献は、記事の末尾に記載されています。

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