日本侠客伝シリーズ

『日本侠客伝』シリーズ：任侠映画の金字塔

『日本侠客伝』シリーズは、高倉健主演で東映が制作した全11作の任侠映画シリーズです。1964年から1971年にかけて製作され、『網走番外地』シリーズ、『昭和残侠伝』シリーズと並び、高倉健の代表作として知られています。シリーズ作品ではありますが、各作品の設定やストーリーに直接的な繋がりはありません。

シリーズ概要

このシリーズは、高倉健の人気を不動のものにした、東映任侠映画の先駆け的存在です。マキノ雅弘が第1作から第9作まで監督を務め、その後、山下耕作と小沢茂弘がそれぞれ1作ずつ監督を担当しました。脚本は笠原和夫が中心となり、8作品で脚本を手がけています。物語の舞台は、東京の下町や地方都市で、昔ながらの職人や博徒たちが、新興やくざや悪徳業者と対立する姿を描いています。

主人公の高倉健は、やくざの世界にいながらも、任侠道を貫き、筋を通す男として描かれています。マキノ監督の演出は、この任侠道を強調し、彼の独特な美学を遺憾なく発揮しています。シリーズ初期の作品は、任侠映画の基本的なパターンを確立し、高倉健の人気を決定的なものにしました。また、『網走番外地』や『昭和残侠伝』など、後続のヒットシリーズを生み出すきっかけともなりました。

制作の背景

1963年、東映東京撮影所（東撮）は、岡田茂所長（後の東映社長）のもとで、鶴田浩二主演の『人生劇場飛車角』を制作し、任侠路線への転換を図りました。翌年、岡田は東映京都撮影所（京撮）所長に復帰し、時代劇の侠客ものを現代劇にアレンジした映画を制作しようとしました。その第2弾として企画されたのが『日本侠客伝』です。

岡田は、笠原和夫に企画を依頼し、笠原は二つの企画を提出しました。一つは『七人の侍』をベースにした、七人のやくざが小さな組を救う物語、もう一つは、親分を殺された組員が復讐を果たす忠臣蔵的な物語でした。岡田は後者を選び、これが『日本侠客伝』となりました。当初のタイトルは『大侠客』でしたが、後に『日本侠客伝』に変更されました。

岡田は当初、中村錦之助を主演に考えていましたが、錦之助は任侠映画に乗り気ではなく、田坂具隆監督の『鮫』の撮影が長引いていることを理由に断られました。そこで、岡田は『人生劇場飛車角』で好演した高倉健を抜擢しました。高倉は当時、ギャング路線で売り出し中でしたが、まだ大ヒット作がありませんでした。京撮のスタッフは、東撮出身の高倉を歓迎せず、錦之助の代役であることに不満を持っていました。

しかし、高倉の演技は、それまでの任侠映画の様式美とは異なる、リアルで粗削りな侠客像を体現し、観客に圧倒的な支持を得ました。この結果、高倉は一躍スターダムにのし上がりました。また、第一作には錦之助が特別出演し、その存在感は映画に深みを与えました。その後、錦之助は任侠映画に出演することはありませんでした。

後続作品への影響

1960年代は、映画会社が自社の作品を直営館や系列館に配給するブロック・ブッキング・システムが主流でした。そのため、映画制作は量産体制が求められ、各作品の企画性よりも、量産作品全体で利用できるフォーマットの創出が重要でした。

『日本侠客伝』は、主人公とそれを支える流れ者というパターンを確立し、このパターンは、後続の『昭和残侠伝』シリーズや『兄弟仁義』シリーズに受け継がれました。『昭和残侠伝』シリーズは、『日本侠客伝』の舞台を終戦直後に変更しただけで、基本的な構造は同じでした。このように、『日本侠客伝』シリーズは、任侠映画の最盛期を築く上で、重要な役割を果たしました。

また、本作は1970年代以降の東映作品にも大きな影響を与えました。岡田茂の指示により、日下部五朗が任侠映画のプロデューサーとなり、天尾完次がエログロ、東映ポルノ、アクション路線を推進しました。脚本家の笠原和夫を本格的に起用したのも岡田でした。岡田は、若い助監督たちを積極的に起用し、東映の世代交代を推し進めました。この時期に才能を開花させた監督たちは、後に東映の映画史を彩る作品を数多く生み出しました。

シリーズ一覧

第1作『日本侠客伝』（1964年）
第2作『日本侠客伝浪花篇』（1965年）
第3作『日本侠客伝関東篇』（1965年）
第4作『日本侠客伝血斗神田祭り』（1966年）
第5作『日本侠客伝雷門の決斗』（1966年）
第6作『日本侠客伝白刃の盃』（1967年）
第7作『日本侠客伝斬り込み』（1967年）
第8作『日本侠客伝絶縁状』（1968年）
第9作『日本侠客伝花と龍』（1969年）
第10作『日本侠客伝昇り龍』（1970年）
* 第11作『日本侠客伝刃』（1971年）

『日本侠客伝』シリーズは、単なる娯楽映画の枠を超え、日本映画史における重要な作品群として、今もなお多くの人々に愛されています。

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