日本原演習場

陸上自衛隊日本原演習場

岡山県の勝田郡奈義町と、その一部が津山市にまたがる地域に所在する陸上自衛隊の重要な訓練施設が、日本原演習場です。中国地方及び四国地方において最大の面積を持つこの中規模演習場は、隣接する陸上自衛隊日本原駐屯地によって管理運営されています。

地名の由来

日本原という地名は、古くから広がる原野であったこの土地の歴史に根ざしています。伝承によれば、天文年間（1532～1554年）に諸国を巡礼した農民の福田五兵衛がこの地に腰を落ち着け、茶屋を開いたのが始まりとされます。彼は茶屋を訪れる旅人から各地の話を聞き、やがて「日本廻国茶屋」、自身は「廻国五兵衛」と呼ばれるようになりました。後にこの地は「日本野」と呼ばれ、それが現在の「日本原」の地名の起源になったと伝えられています。

旧軍時代の歴史

明治時代に入ると、広大な原野であった日本原に軍事演習場を設ける構想が具体化します。1900年（明治33年）には岡山県知事による視察が実施され、その後も詳細な測量や調査が繰り返されました。約8年間に及ぶ調査・交渉を経て、1908年（明治41年）3月に土地買収が完了し、正式に陸軍省管轄の陸軍演習場として開設されます。同年11月2日には、岡山に司令部を置く第17師団隷下の砲兵部隊が最初の実弾射撃を実施しました。

これ以降、大正時代から第二次世界大戦終戦までの間、広島、善通寺、姫路といった各師団が、様々な演習や山砲・野砲の実弾射撃訓練に日本原演習場を使用しました。また、この時期には重要な土木事業も行われています。1932年（昭和7年）に県営事業として起工された溜池造成は、1943年（昭和18年）に完成し、岡山県内でも有数の貯水量を誇る那岐池となりました。この那岐池は、戦後に防衛施設庁によって大規模な改修が行われています。

戦後と自衛隊への移管

1945年（昭和20年）8月の終戦後、戦争末期に駐屯していた部隊は解隊されました。一時的に廠舎には陸軍補導会が入って演習場開拓を試みますが、1946年（昭和21年）3月20日には連合国軍（占領軍）によって接収されます。接収後、まずオーストラリア軍が入り、次に黒人部隊、そしてカナダ軍の演習場となりました。占領軍による砲兵射撃は、時に近隣の菩提寺付近にまで着弾することもあったといいます。

占領軍は1952年（昭和27年）10月に撤収し、その後は日本の警察予備隊が演習場としての使用を開始しました。1957年（昭和32年）11月14日に占領軍の接収が正式に解除され、演習場は大蔵省の所管となりました。その後、1964年（昭和39年）3月31日に大蔵省から防衛庁（現在の防衛省）に移管され、陸上自衛隊の演習場としての歩みを本格化させます。同年6月16日には、演習場の西地区で105mm榴弾砲以下の火器による射撃訓練が開始されました。

地域との関係と射撃訓練

1970年（昭和45年）3月には、演習場を管理する日本原駐屯地が開庁しました。同年4月21日には東地区での試射が行われましたが、この頃から地域住民の間で射撃訓練に対する反対運動が激化します。運動の影響を受け、同年7月22日には当時の勝北町長からの申し入れにより、東地区での射撃が可能になるまで西地区での火砲射撃が中止される事態となりました（小火器射撃は継続）。

その後も射撃訓練の実施には様々な調整が伴いました。射撃中止期間中の音響測定のための試射（1972年1-3月）や、近隣住民からの抗議（1972年3月、幼児病気悪化）、場内の立木伐採に関する調整不足（1973年10月）などが原因で、西地区での射撃が中止と再開を繰り返しました。1975年（昭和50年）5月13日に西地区での射撃が再開され、同年12月25日には東地区でのロケット発射筒の射撃について地域との合意が成立し、訓練が開始されます。しかし、翌1976年（昭和51年）5月には投石事件が発生するなど、訓練実施を巡る緊張関係も存在しました。同年5月17日からは81mm迫撃砲の射撃も始まっています。

演習場の現状と施設

現在の日本原演習場は、那岐山の裾野に沿って帯状に広がる地形を活用しています。東西約6キロメートル、南北約5キロメートルの範囲に及び、その総面積は約1,450万平方メートルに達し、中国・四国地方では最大の自衛隊演習場としての規模を誇ります。

演習場内部には、様々な種類の射場が整備されています。砲迫撃砲や榴弾砲といった間接照準火器に対応する射場としては、弾道が放物線を描くことを想定した2,600メートル級と4,000メートル級の射場が設けられています。間接照準火器の同時射撃は、榴弾砲1門まで可能であり、射角は約152ミル（約8.5度）が用いられます。また、小銃などの小火器や戦車砲といった直接照準火器に対応する射場も存在します。さらに、実弾が上空を通過する状況下での部隊の潜入・行動訓練を行う実弾下潜入訓練場も設けられています。場内には多数の溜池があり、その中でも最も大きなものは、旧軍時代に造成された那岐池です。また、東地区内には那美神社が鎮座しています。

演習場周辺の環境としては、南側に国道53号線（旧因幡道）が東西に走っており、旧軍時代には国道の近くに廠舎が置かれ、道を挟んで現在の日本原駐屯地が位置しています。北側は那岐山や滝山を頂く山地が広がり、歴史ある菩提寺もこの地域に含まれます。東西と南側にかけては、家屋が点在する中に田畑が広がり、畜産業も営まれるなど、日本の農村風景が見られます。周辺には他にも寺社が点在しており、地域の歴史や文化を感じさせます。

日本原演習場は、その広大な敷地と多様な射場、訓練施設を活用し、陸上自衛隊の部隊が実戦的な訓練を行うための重要な拠点となっています。その歴史は旧軍時代に遡り、戦後を経て自衛隊の訓練施設となる中で、地域住民との関係構築や環境問題への配慮など、様々な課題に向き合いながら現在に至っています。中国・四国地方の防衛体制を支える上で不可欠な存在となっています。

もう一度検索