日琉同祖論

日琉同祖論とは

日琉同祖論（にちりゅうどうそろん）とは、日本本土の住民と琉球諸島（沖縄、奄美、宮古、八重山）の住民が、民族的に同一の起源を持つとする学説です。この理論は、日本人と琉球人の人種的・文化的な共通性を強調し、両者の一体性を主張するものです。

起源

日琉同祖論の起源は、16世紀に京都五山の僧侶たちの間で広まった源為朝琉球渡来説に遡るとされています。この伝説では、源為朝が琉球に渡り、その支配者となったとされます。この説は、17世紀に琉球の摂政であった羽地朝秀が編纂した歴史書『中山世鑑』にも影響を与えました。

源為朝琉球渡来説

近年の研究では、源為朝琉球渡来伝説は16世紀前半にはすでに日本で文献に登場していたことが明らかになっています。この伝説の初出は、京都五山の僧侶・月舟寿桂による「鶴翁字銘并序」という文章です。
月舟は、この中で「源為朝が琉球へ渡り、その支配者になったという伝説がある。もしそうであるならば、琉球は日本の附庸国である」と述べています。このことから、16世紀前半には、特に京都五山の僧侶の間で源為朝琉球渡来伝説が広まっていたと考えられます。

この伝説が琉球にもたらされた経緯については諸説あります。禅宗僧侶の交流を通じて伝わった可能性や、袋中の『琉球神道記』、島津氏の外交僧である南浦文之が起草した「討琉球詩並序」などが琉球に伝来し、1650年の羽地朝秀による『中山世鑑』によってこの伝説が完成されたという説があります。

羽地朝秀による日琉同祖論

羽地朝秀は、1650年に琉球最初の正史である『中山世鑑』を編纂しました。この中で、羽地は琉球最初の王とされる舜天が源為朝の子であるとし、琉球は清和[[源氏]]の後裔によって開かれたと主張しました。舜天の実在については議論がありますが、舜天の名自体は『中山世鑑』よりも古い1522年の「国王頌徳碑」にも刻まれています。

さらに、羽地は1673年の仕置書で、琉球の人々の祖先は日本から渡来してきたのであり、言葉の違いは長期間の交流の途絶によるものだと述べました。これは、琉球の王家だけでなく、琉球の人々全体が日本からの渡来人であるという主張です。

現在では、羽地の言説は当時の因習を打破するためのレトリックであるとする説が有力ですが、羽地自身も日琉を同祖とする思いを持っていたと考える研究者もいます。

羽地の日琉同祖論は、王国末期の政治家・宜湾朝保にも影響を与え、宜湾は琉球語彙を編纂し、上代日本語と琉球方言の共通性を指摘しました。

江戸時代の日本における日琉同祖論

江戸時代には、新井白石が『南島誌』で、琉球は『山海経』に記された「南倭」であるとし、琉球の歌謡や古語を根拠に自説を展開しました。

また、藤貞幹は『衝口発』で、神武天皇は沖縄の伊平屋島で生まれ、そこから東征したと主張しました。この説に対して、本居宣長は『鉗狂人』で徹底的に批判しました。

伊波普猷の「同祖論」

沖縄学の大家である伊波普猷は、著書『古琉球』などで、沖縄人と日本人の共通性を指摘しました。彼は、沖縄人が体質、言語、民俗、神話のいずれの点でも「大和民族」と共通しており、紀元後まもなく日本から分離して南に移住したと結論付けました。

伊波の「同祖論」は、後世の研究者によって、日本への同化や日本からの異化という二項対立構造で解釈され、伊波以前の「日琉同祖論」と関連付けられて理解されています。

近年の研究

近年の遺伝子研究では、沖縄県民と九州以北の本土住民は、縄文人を基礎として成立し、東アジア大陸部の主要な集団とは異なる遺伝的構成であることが明らかになっています。また、アイヌ人と琉球人が遺伝的に最も近縁であり、両者の中間に位置する本土人は、沖縄に住む日本人に次いでアイヌ人に近いことも示されています。

考古学的な研究でも、南西諸島の住民の先祖は、九州南部から比較的新しい時期（10世紀前後）に南下して定住したものが主体であると推測されています。また、宮古島の遺跡から発見された人骨のDNA分析では、「100%縄文人」であることが分かり、先史時代の先島諸島の人々が沖縄諸島から来た可能性が示唆されました。

これらの研究結果は、日本列島には旧石器時代から住む縄文人の系統と弥生系渡来人の系統が共存するという「二重構造説」を強く支持しています。

まとめ

日琉同祖論は、歴史的な経緯と様々な学問分野の研究を通じて、その起源や内容が深く探求されてきました。この理論は、日本人と琉球人の関係を考える上で重要な視点を提供し続けています。

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