日祐

日祐（にちゆう）は、永仁6年（1298年）に生まれ、応安7年／文中3年5月19日（1374年6月29日）に入寂した、鎌倉時代後期から南北朝時代にかけて活躍した日蓮宗の高僧です。下総国（現在の千葉県北部）の出身で、千葉氏の一族の子として生まれたと伝えられています。有力な武将であった千葉胤貞の猶子（名目上の子）となり、その強い庇護のもとで仏道を修めました。

日祐は、師である日高のもとで学び、正和3年（1314年）には、日蓮宗の重要な拠点である中山本妙寺と若宮法花寺（現在の法華経寺、千葉県市川市）の第3世貫首（住職）に就任しました。

貫首就任後、日祐は千葉胤貞の流れをくむ千田氏や九州千葉氏といった有力者の外護（外部からの経済的・政治的支援）を受けながら、広範な活動を展開しました。特に房総半島を中心とした地域で、人々への布教活動（勧進）や、仏法との縁を結ばせる活動（結縁）に積極的に取り組みました。その結果、日本寺をはじめ、千田荘、八幡荘、臼井荘といったかつての荘園地域各地に多くの寺院を建立し、日蓮宗の教線を大きく拡大させました。

また、日祐は信仰篤く、毎年欠かさず甲斐国（現在の山梨県）にある日蓮聖人の墓所、身延山久遠寺へ参詣しました。そこで身延山久遠寺の第3世である日進と親交を深め、法華経寺と身延山久遠寺という、日蓮宗における二大中心寺院間の連携を強化し、両寺院の発展に大きく貢献しました。

さらに、日祐は単に信仰活動だけでなく、時の政治権力との関係構築にも力を注ぎました。たびたび都（京都）に上り、天皇や室町幕府の将軍に対して日蓮宗の教えや立場を説明する奏聞（意見具申や報告）を行いました。千葉胤貞が肥前国小城郡（現在の佐賀県）に所領を得た際には、自ら遠く離れた九州へ赴き、現地に光勝寺を開山するなど、地理的に広範囲にわたる活動を行いました。

日祐の功績の中でも特筆すべきは、教学面における貢献です。法華経寺の初代貫首である日常や、先師である日高が遺し、収集した日蓮聖人の直筆文書（真蹟、遺文）の保存と整理に力を尽くしました。さらに、散逸した真蹟を熱心に探し集めることにも尽力し、今日に伝わる貴重な日蓮真蹟の保護に大きく貢献しました。

また、自身も法華経の転読（声に出して読むこと）や写経を繰り返し行う傍ら、日蓮聖人の教義に対する深い研究を進めました。その研究の成果として、問答形式で教義の要点を説いた『問答肝要抄』や、宗派の教えの根本を論じた『宗体決疑抄』といった重要な著作を著し、後世の教義理解に大きな影響を与えました。

応安7年／文中3年（1374年）に世を去った日祐の墓所は、彼が長く住持を務め、その発展に尽くした法華経寺にあります。日祐は、有力な庇護者の支援のもと、房総地域における教線拡大、身延山との連携強化、政治権力への働きかけ、そして日蓮真蹟の保護と教学研究という多岐にわたる活動を通じて、鎌倉・南北朝期の日蓮宗の発展に極めて大きな足跡を残した人物と言えます。

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