日高国

日高国：北海道南西部の歴史と自然

日高国は、北海道南西部に存在した令制国です。大宝律令の国郡里制を踏襲し、戊辰戦争（箱館戦争）終結直後の明治2年（1869年）に設置されました。別名は日州、高州で、五畿八道の北海道（令制）に属していました。現在の北海道日高振興局の地域がその範囲に当たります。

名称の由来と歴史

『日本書紀』には「日高見国」の記述があり、松浦武四郎がこの地を「日高見国」と推定し、「日高」と命名したとされています。

平安時代には、慈覚大師円仁が修行のためこの地を訪れたと伝えられています。鎌倉時代以降は「日の本」と呼ばれる蝦夷が居住し、蝦夷管領である安東氏が統治していました。室町時代頃には和人の進出が始まり、江戸時代には松前藩の支配下に置かれました。

松前藩は、藩家臣に交易を許可する「七ヶ所の場所」と呼ばれる知行地を開設しました。この場所では、アイヌとの交易が行われ、藩の政策としてオムシャなども実施されていました。交易の場所（場所請負制）は、後年の郡制と密接な関係があり、サル場所（沙流郡）、ニイカップ場所（新冠郡）、シツナイ場所（静内郡）、ミツイシ場所（三石郡）、ウラカワ場所（浦河郡）、シャマニ場所（様似郡）、ホロイズミ場所（幌泉郡）が置かれていました。

江戸時代初期には、円空が修行のため日高を訪れ、その足跡を残しています。1611年（慶長16年）には大地震と大津波が発生し、沙流川流域に甚大な被害をもたらしました。平取町ニナツミチャシ遺跡の津波浸水高は約63メートルに及んだと推定されています。

また、静内川流域の漁猟権を巡るアイヌ同士の争いが発生し、松前藩の調停が入るも、再燃しました。この争いがきっかけとなり、寛文9年（1669年）にはシャクシャインの戦いが勃発し、日高国でも多くの和人が犠牲となりました。この戦いは、アイヌと和人の間における複雑な関係と葛藤を浮き彫りにする出来事でした。

交通と経済

江戸時代から明治時代初期の交通手段は、陸上交通として箱館から道東、千島方面に至る道（現在の国道235号、国道336号の前身）がありましたが、険しい地形のため、大河内善兵衛政寿らの命により様似山道や猿留山道が開削されました。海上交通では、北前船が和人地や畿内とを結び、沙流郡門別や様似などに寄港していました。ニシン漁は日高国経済の重要な部分を占めており、北海道におけるニシン漁史においても重要な役割を果たしていました。

江戸時代後期、日高国は東蝦夷地に属し、国防上の重要性から幕府直轄領（公議御料）となり、伊能忠敬による測量が実施されました。その後、松前藩領と公議御料の間を転々としたのち、明治2年に7郡79村の日高国が正式に設置されました。しかし、明治4年までは、道外の藩や士族、寺院などが分領支配を行い、複雑な政治情勢が続いていました。

明治15年（1882年）の廃使置県により、札幌県の管轄下に入りました。

文化と宗教

日高国には、蝦夷三官寺の1つである等澍院（様似郡）をはじめ、多くの寺院や神社が存在していました。浦河神社、義経神社、住吉神社など、江戸時代以前から続く神社が多く、地域社会の信仰の中心となっていました。これらの神社の多くは郷社以下の社格でした。

行政区分と人口

日高国は、沙流郡、新冠郡、静内郡、三石郡、浦河郡、様似郡、幌泉郡の7郡から成り立っていました。明治5年（1872年）の人口は約6574人でした。松前藩の支配、その後は分領支配など、複雑な歴史を持つ日高国は、アイヌ文化と和人社会の交流、そして激動の時代を反映した歴史的遺産を多く残しています。現在もその歴史と自然は、多くの人々を魅了し続けています。

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