旧外地の高等教育機関

旧外地とは、第二次世界大戦終結以前に日本の統治下にあった地域や、日本の勢力圏に組み込まれたアジア諸地域を広く指します。具体的には、台湾、朝鮮、樺太、関東州といった狭義の「外地」に加え、満洲、中国大陸、東南アジアなどが含まれます。これらの地域には、それぞれの歴史的背景や必要性に基づいて様々な高等教育機関が設立されました。

これらの機関の大きな特徴は、内地（日本国内）の文部省が管轄する高等教育機関とは異なり、多くが設立地の総督府（台湾総督府、朝鮮総督府）、関東局、南洋庁、あるいは外務省などの管理下に置かれていた点です。これは、各地域の統治や開発における人材育成、あるいは外交上の必要性などが教育行政に強く反映されていたためと考えられます。

しかし、これらの高等教育機関の運命は、第二次世界大戦の終結と日本の敗戦により大きく変わりました。多くの学校が廃止・閉鎖されるか、あるいは設立された地域の新たな国家体制のもとで再編・統合され、異なる教育機関として再出発することとなりました。以下に、主な地域の高等教育機関とその戦後の状況を概観します。

台湾

台湾に設立された高等教育機関は、全て台湾総督府が管理する官立学校でした。代表的な機関としては、1928年に設立された台北帝国大学があります。この大学は、戦後、中華民国国立台湾大学として引き継がれ、現在に至るまで台湾を代表する総合大学として存続しています。その他、台北高等商業学校（後に台北経済専門学校）は国立台湾大学の一部を経て国立成功大学へ、台南高等工業学校（後に台南工業専門学校）は国立成功大学へ、台北高等農林学校（後に台中農林専門学校）は国立中興大学へ、台湾総督府医学校は台湾大学医学院へと、それぞれ後継の機関に引き継がれました。台北高等学校は廃止されましたが、その敷地は国立台湾師範大学に転用されています。

朝鮮

朝鮮では、朝鮮総督府の管理下に置かれていましたが、官公立学校に加えて多数の私立学校が存在したことが特徴です。官公立学校では、京城帝国大学が戦後、大韓民国のソウル大学校の中核となりました。京城工業専門学校や京城経済専門学校などもソウル大学校に統合されています。また、京城師範学校や各地の医学専門学校なども設立され、それぞれ戦後の韓国や北朝鮮の教育機関に引き継がれました。私立学校では、延禧専門学校（後の延世大学校）、普成専門学校（後の高麗大学校）、梨花女子専門学校（後の梨花女子大学校）などが、それぞれ戦後の大韓民国を代表する私立大学へと発展しました。一方、平壌に設立された崇実専門学校や大同工業専門学校などは、戦後、朝鮮民主主義人民共和国の金日成総合大学などに影響を与えたとされています。

関東州

関東州の高等教育機関は、全て関東局の管轄下にありました。主要な機関には、旅順工科大学や旅順医学専門学校がありましたが、第二次世界大戦終結後、関東州がソ連の占領下に置かれたことなどもあり、これらの学校は全て閉鎖・消滅しました。南満洲工業専門学校（後の大連工業専門学校）は、戦後、中華人民共和国の大連理工大学の一部となりました。大連高等商業学校（後の大連経済専門学校）も、教育機関として改組されました。

満洲

満洲には、建国大学や満洲医科大学、新京工業大学など、多様な高等教育機関が設立されました。これらの機関の多くは、日本の敗戦に伴い大きな変化を余儀なくされました。満洲医科大学はソ連を経て中国に接収され、現在の中国医科大学の基盤となりました。建国大学などの主要な機関は、一時中華民国の大学となりましたが、その後の体制変化により消滅した学校もあります。哈爾濱学院や北満学院などは、終戦時に廃校となりました。

樺太

樺太に設立された高等教育機関には、樺太医学専門学校や樺太師範学校などがありましたが、1945年のソ連対日参戦に伴い、全て閉鎖されました。

中国

中国大陸の日本の勢力圏内にも、いくつかの高等教育機関が設立されました。上海にあった東亜同文書院大学は、終戦により廃校となりましたが、その関係者が愛知県で愛知大学を設立する契機となりました。北京には東亜同文会が運営する北京興亜学院や華北高等工業学校がありましたが、これらも終戦によって消滅しました。青島医学専門学校は、戦後中国当局に接収され、現在の青島大学医学院へと引き継がれました。

南洋（東南アジア）

サイゴン（現在のホーチミン市）には、外務省と文部省が共同で管轄した南洋学院がありましたが、この学校も終戦時に廃校となりました。

これらの旧外地の高等教育機関は、短い歴史の中で多くの人材を育成しましたが、時代の波に翻弄され、その多くが設立された地でその名を消すか、現地の新しい教育体制のもとで再編されることとなりました。その歴史は、戦前日本の植民地政策や勢力拡大、そして戦後の国際情勢の変動を反映する貴重な事例と言えます。

もう一度検索