早川実

幼少期からアマチュア時代

1949年4月3日、福岡県福岡市で生まれた早川 実氏は、北九州の大病院に勤務するレントゲン技師の父が、入院患者のために野球大会を開いていた影響で、幼少期から野球に親しみました。父と共に患者を励まし、試合では投げて守る役割を担うアイドル的存在でした。

福岡電波高等学校に進学後、1年生の春季九州大会で救援登板してチームを勝利に導きましたが、当時の規定で1年生の出場が認められていなかったため、無効試合となり敗退。エースとして迎えた3年次の1967年には、春季九州大会福岡県南部予選の決勝まで勝ち進むものの、博多工業高校に完封負けを喫しました。

高校卒業後の1968年、福岡工業大学に進学。大学全日本選手権には1968年と1969年の2年連続で出場しましたが、いずれも初戦で敗退しました。家庭の事情から大学を中退し、1970年に西濃運輸へ入社。当初は中央球界での評価は高くありませんでしたが、入社後に着実に実力をつけ、小林国男氏、柴田昌邦氏と共に実業団屈指の強力投手陣の一角を担う存在となりました。

都市対抗野球大会には1970年から6年連続で出場し、1973年と1974年にはエースとしてマウンドに立ちましたが、いずれも2回戦で敗退。しかし、1975年には1回戦で電電東京を完封する快投を見せました。また、1974年に始まった社会人野球日本選手権にも2年連続で出場。1975年にはカナダで開催された第2回インターコンチネンタルカップの日本代表に選ばれ、全試合リリーフで5試合に登板。開催国カナダとの試合では、一死満塁のピンチを無失点で切り抜け、勝利投手となるなど、日本の準優勝に大きく貢献しました。

プロ入りと現役時代

社会人野球での実績が認められ、1973年から3年連続で東海・北陸地区の社会人ベストナインに選出され、1975年には全日本の社会人ベストナインにも名を連ねました。同年のプロ野球ドラフト会議で、中日ドラゴンズから4位指名を受けます。

当時の西濃運輸は実業団日本一を目指しており、エースである早川氏のプロ入りを強く慰留しました。これは、同時に宮本氏も日本ハムに指名され、戦力の大幅減が懸念されたためでもありました。球団側はドラフト直後に交渉の了解を求めましたが、正式な承諾は得られませんでした。しかし、早川氏自身は年齢的にプロ入りのラストチャンスと考え、会社に辞表を提出。球団や野球部長からの度重なる説得にも、プロへの熱い思いは揺らぐことなく、入団を決意しました。

入団発表直後に長男・功氏が誕生し、「子連れルーキー」として注目を集めました。社会人通算36勝という実績から、近藤貞雄ヘッドコーチからは即戦力のリリーフ投手として期待され、その度胸と巧みなピッチングには定評がありました。サイドスローからの決め球であるシンカーに加え、カーブやチェンジアップも投げました。

プロ1年目の1976年、開幕直後の4月10日に対大洋ホエールズ戦でプロ初登板。8回裏に6番手として救援し、平松政次氏にソロ本塁打を浴びましたが、これが結果的にプロ初勝利となりました。この時、早川氏はベンチに戻り「平松は今年のセ・リーグの打撃三冠王だったな…」とコメントしたと伝えられています。翌11日にも5番手で救援登板し、味方打線の逆転により勝利投手となり、プロ入り2日連続で勝ち星を挙げました。この2勝は、それぞれ1イニング、3分の2イニングの登板で、合計32球で達成したものです。僅か19球で初勝利を挙げた際には、「この喜びをさっそく坊主に知らせます」と語るなど、生まれたばかりの息子に伝えたいほどの喜びでした。当時のチームのエースだった星野仙一氏からも「俺よりも勝っとるやないか」と声をかけられたほどです。

また、1年目から二軍の若手投手の面倒見が良く、「ムーミン」というニックネームで親しまれました。4月18日にはヤクルトスワローズ戦で鈴木康二朗氏からプロ初奪三振を記録。5月29日にはヤクルト戦でプロ初セーブを挙げました。

この年は20試合に登板し2勝1セーブを記録しましたが、この2勝が結果的にプロでの通算勝利数となりました。2年目の1977年以降は一軍での登板機会に恵まれず、3年目の1978年にはウエスタンリーグで最優秀防御率のタイトルを獲得しました。しかし、1979年に戦力外通告を受け、現役を引退しました。

引退後のキャリア

現役引退後も中日ドラゴンズに残り、球団職員として長く貢献しました。打撃投手と用具係を兼務（1980年 - 1986年）した後、一軍コーチ補佐兼監督付広報（1987年 - 1989年）、一軍投手コーチ補佐兼監督付広報（1990年）、一軍コーチ補佐兼広報（1991年）と様々な役職を歴任しました。この間、監督に就任した星野仙一氏の抜擢により、運転手も兼ねたコーチとしてチームを支えました。キャンプでは外野手のゲーリー・レーシッチ氏に厳しいノックを打ち込み、「飛び込め! ワン・オア・エイト!（一か八か）」と叫び、ナインの笑いを誘いつつ、ゲーリー氏の意識改革に貢献したというエピソードも残っています。打撃投手としてもチームに貢献し、1988年のリーグ優勝を支えました。また、チームが苦境に立たされた際に、遠征先の金沢で「今川焼 本場十勝のあん入り」の幟を見て買いに行き、星野監督に「これを食べると、今日から10勝します」と伝えたところ、「たわけ！」と笑われたという逸話もあります。

1992年からはスカウトに転身し、野口茂樹氏や荒木雅博氏などのちの主力選手を担当しました。1996年から1997年には再び一軍投手コーチを務めた後、課長職チーフスカウトとして手腕を発揮しました。2011年に中日を退団。

2012年からは東北楽天ゴールデンイーグルスに移籍し、スカウトとして活動。則本昂大氏を担当しました。その後はスカウト部門の副会長補佐やプロアマスカウトアドバイザーを務め、2018年10月28日に楽天を退団しました。

楽天退団後の2019年からは、月刊ドラゴンズ誌でドラフト候補選手を紹介する連載を持っていましたが、2020年1月、球団代表付調査役として9年ぶりに古巣である中日ドラゴンズに復帰しました。

記録

初登板・初勝利：1976年4月10日、対大洋ホエールズ3回戦（川崎球場）、8回裏に6番手で救援登板、1回1失点
初奪三振：1976年4月18日、対ヤクルトスワローズ3回戦（明治神宮野球場）、8回裏に鈴木康二朗から
初セーブ：1976年5月29日、対ヤクルトスワローズ7回戦（福井県営球場）、8回表2死に3番手で救援登板・完了、1回1/3を無失点

背番号

17 （1976年 - 1979年）
85 （1980年 - 1991年）
79 （1996年 - 1997年）

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