自然環境保全地域

自然環境保全地域について

自然環境保全地域とは、自然環境保全法に基づき、特に自然環境の保全が必要な地域として指定される場所です。この法律では、原生自然環境保全地域（環境大臣が指定）と都道府県自然環境保全地域（都道府県知事が指定）も扱います。これらを総称して「自然環境保全地域等」と表記します。

概要

自然環境保全地域は、自然保護区の一種として分類されます。自然保護区には、自然公園法に基づく国立公園なども含まれますが、自然環境保全法は一般にはあまり知られていません。自然環境保全法では、まず自然環境保全地域、都道府県自然環境保全地域、原生自然環境保全地域が区分され、さらに自然環境保全地域と都道府県自然環境保全地域は、特別地区、海域特別地区（自然環境保全地域のみ）、普通地区に分けられます。

自然公園との違い

自然環境保全地域の目的は自然環境の保全（自然環境保全法第1条）であるのに対し、自然公園は自然環境の保護と利用促進（自然公園法第1条）を目的とする点が異なります。また、自然環境保全地域等は自然公園の区域には含まれません。原生自然環境保全地域は、原則として保安林の区域も指定対象外です。

このように、自然環境保全地域等と自然公園は目的と根拠法が異なりますが、手続き面では共通点も多く見られます。例えば、自然環境保全法第4条に基づく基礎調査は、自然公園関連でも活用されています。しかし、自然公園法にも利用制限があることから、両者の違いは明確ではないという意見もあります。

指定

自然環境保全地域と原生自然環境保全地域は環境大臣が、都道府県自然環境保全地域は都道府県知事が、一定の要件を満たす地域の中から、特に自然環境を保全する必要がある場所を指定します。環境省の通知では、原生自然環境保全地域は原生状態の維持、自然環境保全地域は優れた自然環境の保全のため、厳しい行為制限を行うべきとされています。また、土地利用との関連も大きいと指摘されています。

自然環境保全地域等は、利用を前提としていないため、私権の制限が大きく、観光振興に繋げることも難しいため、地元が積極的でない傾向があるといわれています。そのため、指定地点数も伸び悩んでおり、自然保護団体も現状を問題視しています。

指定の目安

自然環境保全地域の指定目安は以下の通りです。

高山植生・亜高山性植生：1,000ha以上
優れた天然林：100ha以上
特異な地形・地質・自然現象：10ha以上
優れた自然環境を維持している河川・湖沼・海岸・湿原・海域：10ha以上

原生自然環境保全地域の指定基準は後述します。

保全計画と保全事業

自然環境保全地域等における自然環境の保全のための規制や施設に関する計画を「保全計画」、保全計画に基づき実施する事業を「保全事業」といいます。

原生自然環境保全地域と自然環境保全地域の保全計画は、環境大臣が決定します。原生自然環境保全地域については、関係都道府県知事と中央環境審議会の意見を聞いて決定されます。保全計画の概要は官報で公示され、一般に閲覧可能となります。自然環境保全地域の場合、保全計画には以下の事項が定められます。

1. 保全すべき自然環境の特質など、保全に関する基本的な事項
2. 特別地区、海域特別地区の指定に関する事項
3. 保全のための規制に関する事項
4. 保全のための事業に関する事項

原生自然環境保全地域では、環境大臣が保全計画により立入制限地区を指定することができます。

保全事業は国が執行しますが、地方公共団体は環境大臣と協議し同意を得て、原生自然環境保全地域に関する保全事業の一部を執行できます。保全事業として行う行為は、原生自然環境保全地域における禁止行為や、自然環境保全地域の特別地区における許可が必要な行為の対象外となります。

都道府県自然環境保全地域には、保全計画や事業に関する規定は特にありませんが、都道府県の権限で行われることが想定されています。

環境以外の関係行政

自然環境保全地域等は環境省が所管しますが、規制には多くの行政分野が関わります。環境省は、他省庁との協調を重視しており、ユネスコの世界遺産（自然遺産）推薦にも共同で取り組んでいます。

林野庁：国有林には自然環境保全地域（森林生態系保全地域）が指定されており、農林水産省は環境行政側に農林漁業との調整を求めています。
文化庁：自然環境が「文化」に関係することがあります。
国土交通省：国土利用計画法に基づく土地利用基本計画における自然保全地域に関わります。環境省は、指定予定区域を土地利用基本計画の自然保全地域とするよう通知しています。

環境省は、自然環境保全行政が農林漁業、鉱業、電源開発、都市計画など、様々な行政分野と関連性が大きいとしています。特に農林漁業への配慮は重要視されています。自然環境保全法成立当時も、環境庁と農林省、建設省との調整が困難でした。

規制

自然環境保全地域における規制について説明します。都道府県自然環境保全地域については、各都道府県の条例で定められます。

特別地区では、指定された行為について許可が必要です。普通地区では、指定された行為について届出が必要です。これは、自然公園における特別地域（許可制）と普通地域（届出制）に似ています。原生自然環境保全地域については、次に説明します。

特別地区で許可が必要な行為

建築物の新築・改築等
宅地の造成、土地の開墾等
鉱物の掘採や土砂の採取
埋立てや干拓
河川、湖沼の水位や水量に増減を及ぼすこと
木竹を伐採
湖沼や湿原及び周辺に汚水等を排水すること

普通地区で届出が必要な行為

建築物の新築・改築・増築等
宅地の造成、土地の開墾等
鉱物の掘採や土砂の採取
埋立てや干拓
周囲の特別地区内の河川、湖沼の水位や水量に増減を及ぼすこと

届出制ではありますが、受理する側は行為を制限・禁止することが可能です。

原生自然環境保全地域

原生自然環境保全地域とは、自然環境保全法に基づき、人の活動の影響を受けていない原生状態を維持している地域で、一定以上の面積を有する土地（国または地方公共団体が所有）のうち、特に保全が必要な地域のことです。指定された地域は、国立公園、国定公園、都道府県立自然公園の区域には含まれません。

原生自然環境保全地域は、極相に近い植生と動物相を持ち、過去に人の影響を受けていても自然状態に回復している地域であり、生態系を維持するために、国や地方公共団体が所有する1000ヘクタール以上（海に面した地域では300ヘクタール以上）の面積を確保できる場所が対象となります。また、周辺の自然度が高いことも要件です。

原生自然環境保全地域は、日本の自然保護区の中でも最も厳格な保護体制が敷かれており、土地利用の制約が非常に大きいです。指定には環境大臣が、関係都道府県知事と中央環境審議会の意見を聞き、土地を所有する行政機関や地方公共団体の同意を得る必要があります。現在、5箇所が指定されています。

行為の制限

原生自然環境保全地域では、以下の行為が禁止されています。

建築物等の新築、改築、増築
木竹の植栽
動物を放つこと（家畜の放牧を含む）

これらの禁止規定は、自然公園法にはありません。

立入制限地区

特に自然環境の保全が必要な場合、環境大臣は立入制限地区を設けることができます。立入制限地区は、原則として誰も立ち入ることができません。例外としては、自然保護に関わる調査や遭難者救助などがあります。現在、立入制限地区とされているのは南硫黄島のみです。

指定地域

環境大臣が指定
原生自然環境保全地域
自然環境保全地域

関連項目

自然環境保全法
保安林
自然保護区

脚注

出典

外部リンク

インターネット自然研究所（環境省）
自然保護各種データ一覧
各都道府県知事宛自然保護局長通知（1974年6月10日）
畠山武道、北村喜宣、大塚直『環境法入門』日本経済新聞出版社、2007年。
* 日本自然保護協会『生態学からみた野生生物の保護と法律 : 生物多様性保全のために』講談社、2010年。

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