昭和天皇実録

昭和天皇 実録

『昭和天皇実録』は、宮内庁書陵部によって編纂された、昭和天皇の公式な伝記です。この実録は、天皇の生涯における言動や出来事を詳細に記録したもので、歴史研究において非常に重要な資料とされています。

概要

編纂作業は、1990年（平成2年）4月に開始され、当初16年計画で進められました。しかし、新たな資料の発見などにより、完成予定は二度にわたり延長され、最終的には24年5ヶ月という長期間を経て、2014年（平成26年）8月に完成しました。完成した実録は、正本と副本が天皇皇后両陛下に奉呈されています。

実録は、目次・凡例を含む全61冊、12,137ページに及ぶ和製本で、編年体で構成されています。公刊本としては、索引を含め全19冊で刊行されました。編纂費用は、人件費を除いて約2億3,000万円となっています。

当初、宮内庁は実録の一般公開を予定していませんでしたが、2014年1月9日の方針転換により、情報公開請求があれば全文を開示することになりました。2014年9月9日から11月30日にかけて一般公開が行われました。この際、過去の『大正天皇実録』で問題視された個人情報の黒塗りは、昭和天皇実録では個人情報が記載されていないため、全面公開となっています。

公刊本の出版事業者は、2014年9月に行われた公募入札の結果、東京書籍株式会社に決定し、2015年3月27日から2019年3月28日にかけて出版されました。

編集の経過

編纂開始当初、宮内庁書陵部には近現代史の専門家が少なかったため、まず人材の確保から始まりました。書陵部の職員5名と外部の研究者ら計25名で編纂作業がスタートし、1992年度には最多で計34名の職員が関わりました。最終的には、累計で112名がこの事業に携わりました。

編纂方針については、当初「明治天皇紀」のような歴史的事績を重視する案もありましたが、1990年4月、米田雄介編修課長により「昭和天皇の生涯の言動を確実な記録・文書に基づき叙述する」という方針が決定されました。これは、歴史の評価は実録を読んだ人が行うべきであるという、米田課長の考えに基づいています。

作業は、各年代ごとに4つの班に分かれ、それぞれが1901年から1928年、1929年から1945年、1946年から1966年、1967年から1989年を担当しました。各班が資料収集と執筆を行い、編修課長が全体を統括しました。実録の執筆は、1998年12月から開始されました。

編纂にあたっては、宮内庁内の「侍従日誌」や侍医の「拝診録」、海外要人との「外賓接待録」などの文書整理から始まりました。さらに、各自治体の「行幸啓録」、外務省外交史料館、防衛省防衛研究所、国立国会図書館憲政資料室などの資料を収集し、アメリカ、イギリス、ベルギーへの計5回の出張調査も行われました。また、元侍従ら約50人への聞き取り調査も行われ、最終的には3,152件の資料が収集されました。中でも、侍従長だった百武三郎の「百武三郎日記」などの「百武三郎関係資料」は貴重な新資料として提供されました。

しかし、全ての資料が網羅されているわけではなく、2019年8月には、田島道治初代宮内庁長官による昭和天皇との面会記録である「拝謁記」の存在が明らかになりました。この「拝謁記」は、田島家が長らく開示を拒否していたため、実録には反映されていません。この「拝謁記」の内容と実録の内容には、昭和天皇の退位に関する記述などで相違が見られます。また、2000年に香淳皇后が崩御した際、昭和天皇の日記が見つかりましたが、「亡き天皇のお忘れ物」として皇后とともに陵に埋葬されたとされています。

内容・新事実

実録には、昭和天皇が神前で戦勝を祈願した際の御告文や御祭文の原文が初めて掲載されました。また、昭和天皇の幼少期の手紙や作文、1925年の鼻炎手術に関する記述、側近の「拝聴録」の未知の部分などが明らかになりました。

特に、ポツダム宣言受諾の際の御前会議の開始日時については、これまで諸説ありましたが、実録の記述により、1945年8月10日午前0時3分であることが判明しました。ただし、実録には歴史的な定説を覆すような内容は含まれていないとされています。

平成の天皇（現上皇）の反応

実録の奉呈は、2014年8月21日に皇居御所で行われ、天皇は実録完成を喜ばれ、編纂関係者を労われました。また、天皇誕生日の記者会見では、実録編纂の苦労をねぎらい、昭和天皇を偲ぶよすがとしたいと述べられています。

誤りの発覚

実録には、天皇（現上皇）の指摘により、昭和天皇の御製の月日と場所の情景に誤りがあることが判明しました。さらに、奉呈された原本や報道機関に提供した電子データには、約5,000箇所の誤りが見つかりました。この誤りは、公刊本の出版に伴う確認作業中に判明したもので、大半は出版時に訂正されましたが、出版後にも数十箇所の誤りが発見されています。その後、宮内庁は2021年7月に、追加で2,200箇所の誤りを公表し、合計7,254箇所の誤りを訂正しました。修正された公刊本にも157箇所の誤りが見つかり、出版元の東京書籍が正誤表を公開しています。

書誌

『昭和天皇実録』は、宮内庁編集、全19冊で、東京書籍より2015年3月27日から2019年3月28日にかけて刊行されました。各巻の内容とISBNコード、ページ数は以下の通りです。

第一（明治34年 - 大正2年）ISBN 978-4-487-74401-5 全724頁 2015年3月27日
第二（大正3年 - 大正9年）ISBN 978-4-487-74402-2 全676頁 2015年3月27日
第三（大正10年 - 大正12年）ISBN 978-4-487-74403-9 全996頁 2015年9月28日
第四（大正13年 - 昭和2年）ISBN 978-4-487-74404-6 全856頁 2015年9月28日
第五（昭和3年 - 昭和6年）ISBN 978-4-487-74405-3 全952頁 2016年3月30日
第六（昭和7年 - 昭和10年）ISBN 978-4-487-74406-0 全872頁 2016年3月30日
第七（昭和11年 - 昭和14年）ISBN 978-4-487-74407-7 全916頁 2016年3月30日
第八（昭和15年 - 昭和17年）ISBN 978-4-487-74408-4 全884頁 2016年9月29日
第九（昭和18年 - 昭和20年）ISBN 978-4-487-74409-1 全952頁 2016年9月29日
第十（昭和21年 - 昭和24年）ISBN 978-4-487-74410-7 全960頁 2017年3月28日
第十一（昭和25年 - 昭和29年）ISBN 978-4-487-74411-4 全784頁 2017年3月28日
第十二（昭和30年 - 昭和34年）ISBN 978-4-487-74412-1 全720頁 2017年3月28日
第十三（昭和35年 - 昭和39年）ISBN 978-4-487-74413-8 全752頁 2017年9月30日
第十四（昭和40年 - 昭和44年）ISBN 978-4-487-74414-5 全752頁 2017年9月30日
第十五（昭和45年 - 昭和48年）ISBN 978-4-487-74415-2 全792頁 2017年9月30日
第十六（昭和49年 - 昭和53年）ISBN 978-4-487-74416-9 全784頁 2018年3月30日
第十七（昭和54年 - 昭和58年）ISBN 978-4-487-74417-6 全688頁 2018年3月30日
第十八（昭和59年 - 昭和64年）ISBN 978-4-487-74418-3 全780頁 2018年3月30日
人名索引・年譜（約2万2千名の人名索引と詳細な年譜）ISBN 978-4-487-74419-0 全587頁 2019年3月28日

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