暴動 (スライ&ザ・ファミリー・ストーンのアルバム)

『暴動』：内なる混沌が生んだ孤高の傑作

スライ&ザ・ファミリー・ストーンが1971年に発表した5枚目のスタジオ・アルバム『暴動』（原題：There's a Riot Goin' On）は、バンドのキャリアにおける頂点であると同時に、当時の社会状況やフロントマン、スライ・ストーン自身の深い内面を映し出した、異質にして重要な作品です。従来の祝祭的でファンキーなサウンドから一転、内省的でダークなトーンを纏った本作は、その後の音楽シーンに計り知れない影響を与え、1970年代を代表するアルバムの一つとして広く認められています。音楽メディアからの評価も高く、『ローリング・ストーン』誌が選ぶ「オールタイム・グレイテスト・アルバム500」（2020年版）では82位にランクインしています。アルバムのタイトルは当初『アフリカは君に語りかける』となる予定でした。

孤立無援の制作現場

本作の制作は、契約上の提出期限から大幅に遅れて進行しました。CBSレコードの役員クライヴ・デイヴィスは、いつまでも完成しないアルバムに頭を抱えていたといいます。スライ・ストーンは、カリフォルニア州サウサリートのレコード・プラント・スタジオ内に自らが設営したスタジオや、ベル・エアの邸宅の屋根裏に引きこもり、アルバムの大部分の作業をほとんど一人で行いました。スタジオにはベッドが置かれ、スライはしばしば寝転がったままボーカルを録音するなど、常軌を逸した方法で制作を進めました。バンドの他のメンバーによると、アルバムに収録されている演奏の大半は、スライがスタジオで楽器を多重録音して一人で作り上げたものだといいます。他のメンバーの演奏が使われている楽曲も、かつてのように全員が集まってセッションするのではなく、個別に録音されたものをスライが後から重ね合わせる形で完成されました。さらに、「ファミリー・アフェア」などいくつかの曲では、バンドメンバーの代わりに、ボビー・ウーマック、アイク・ターナー、ビリー・プレストンといった外部の著名なミュージシャンが協力しています。

1971年秋、ついにスライ・ストーンはマスターテープを完成させ、個人でCBSレコードのオフィスへ届けました。これにより、長年の遅延問題は解消されました。

サウンドの変化とテーマの深化

アルバムに先駆けてリリースされたシングル「ファミリー・アフェアー」は、バンドにとって約2年ぶりの新曲であり、彼らにとって4曲目（シングルとしては3枚目、ただし「Thank You / Everybody Is a Star」は両A面扱い）にして最後の全米ポップチャートNo.1ヒットとなりました。しかし、この曲は従来のポジティブでパワフルなファンク・サウンドとは大きく異なっていました。憂いを帯びたエレクトリックピアノの響きに乗せて、スライと妹のローズ・ストーンが家族の光と影について歌うこの曲で、スライは低く、暗鬱なトーンで自身のパートを歌い上げています。また、この曲のリズムはドラムマシン（リズム・ボックス）によるもので、こうした装置を導入した最初期のヒット曲の一つとされています。スライはリズム・ボックスを使うことで非現実的なサウンドが得られると考え、複雑な多重録音を試みました。

1971年11月1日にアルバムが発売されると、その内容はさらに聴く者を驚かせました。アルバムの大部分でリードボーカルを務めるのはスライ単独であり、バンドメンバーの中でソロのリードパートがあるのはローズだけです。全体を通じて、スライによる再録音や多重録音から生まれた、ややまとまりがなく、浮遊感のあるダブのようなサウンドが特徴的です。しかし、このサウンドは、ドラッグに溺れ、くたびれたかのようなスライのボーカルや詞の世界観と不思議な調和を見せています。

本作でスライが取り上げたテーマは、ドラッグ体験（「Luv n' Haight」）、自己の探求（「Poet」）、そして希望に満ちた1960年代が終わり、暗黒の1970年代が訪れたという宣言（「Africa Talks to You 'The Asphalt Jungle'」）など、極めて個人的かつ社会的なものです。これまでのアルバムにあった明るさや一体感は薄れ、暗く不吉なサウンドが全体を支配しています。これは、当時の多くの人々が感じていた、夢や希望の喪失感を反映していると言われています。

初期の代表曲「Thank You」は、本作ではテンポを落とし、不気味な雰囲気にアレンジされた「Thank You For Talkin' to Me Africa」として再構築されました。他に、「ランニン・アウェイ」（ローズ・ストーンがスライとユニゾンでリード・ボーカル）と「スマイリン」（新ドラマー、ジェリー・ギブソンが初めてレコーディングに参加した曲）がシングルカットされています。旧ドラマーのグレッグ・エリコは、スライの麻薬問題による変化から、このアルバム制作が本格化する前の1971年初頭にバンドを離れていました。

評価と影響力

発売当時、『暴動』のサウンドはあまりにも実験的で内省的であったため、批評家やファンの間でどのように受け止めるべきか戸惑いの声もありました。しかし、年月が経つにつれて、その革新性、芸術性、そしてスライの誠実な内面表現が評価され、今日ではロック史において最も重要かつ優れた作品の一つとして広く認識されています。本作は、後のジョージ・クリントン率いるファンカデリックや、オハイオ・プレイヤーズといったファンク・ミュージックの発展に大きな影響を与えた初期の傑作と見なされています。

収録曲は多くのアーティストによってカヴァーされたり、サンプリング素材として使用されたりしています。その中には、イギー・ポップ、レイラ・ハザウェイ、ウルトラマグネティックMC's、デ・ラ・ソウル、ビースティ・ボーイズ、グウェン・ガスリーなどが含まれており、その影響力の広さを物語っています。

本作は音楽メディアの主要なランキングで常に上位に位置しています。『ローリング・ストーン』誌の「オールタイム・グレイテスト・アルバム500」では2003年版で99位、2020年版では82位にランクアップしました。また、ピッチフォーク・メディアの選ぶ「1970年代のトップ100アルバム」では4位に選出されています。

象徴的なアートワーク

オリジナルLPのジャケット写真は極めて印象的です。星の代わりに太陽が配された、赤、白、黒の三色からなる独特な星条旗をモチーフとしています。タイトルやアーティスト名などの文字情報は一切記されていませんでしたが、商業的な理由からエピック・レコードはLPに「ヒット・シングル『Family Affair』収録」と書かれたステッカーを貼付しました。この写真は、ファミリー・ストーンのA&Rディレクターであったスティーヴ・ペリーによって撮影されたものです。

スライ自身は、このデザインに込められた意味を説明しています。黒は色の欠如、白はすべての色の混合、そして赤はあらゆる人に等しく流れる血の色を表しており、「すべての人種の人々」を象徴していると語りました。星ではなく太陽を配したことについては、「俺にとって星は探求を意味してるんだ。星っていうのは探さなきゃいけないし、数が多すぎるからだ。でも太陽は常にそこにあってこっちを見てるものだろ」と述べ、伝統的な星条旗を縫ったとされるベッツィ・ロスの仕事に敬意を払いながらも、自身のデザインの方が優れているという独自の視点を示しました。

タイトル・トラックの謎

アルバムのA面最後には、タイトルと同名のトラック「暴動」（There's a Riot Goin' On）が収録されていますが、その演奏時間は0分0秒と記されています（CDでは技術的な理由から4秒の無音トラックとして収録されています）。長らくこの謎めいた無音トラックとアルバムタイトルは、1970年7月27日にイリノイ州シカゴで発生した暴動、特にスライ&ザ・ファミリー・ストーンがフリーコンサートに遅延したことが原因とされた事件を暗喩しているのではないかという憶測が広まりました。この事件では、数人の警官を含む100人以上が負傷したと報じられています。

しかし、スライ自身は1997年にファンに対してこの噂を否定しました。彼は「自分はいかなる暴動も起きてほしくない」という強い願いから、表題曲に演奏時間を与えなかったと説明しています。これは、アルバムの混沌とした雰囲気やタイトルとは裏腹に、スライの内面に潜む平和への希求を示唆しているのかもしれません。

孤高の輝き

『暴動』は、スライ・ストーンのパーソナルな苦悩や社会への視線が色濃く反映された、極めてプライベートでありながらも普遍的なテーマを扱った作品です。その実験的なサウンドと内省的な歌詞は、発表から半世紀以上を経た今もなお、多くのリスナーやアーティストを惹きつけ、影響を与え続けています。混沌の中から生まれ落ちたこの孤高の輝きは、音楽史の重要な一章として、特別な光を放っています。

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