書店ストライキ

書店ストライキとは、1972年（昭和47年）9月に日本の書店業界が実施した、書籍の流通における書店の取り分（マージン）の見直しを巡る対立から発生したストライキです。この出来事は日本の出版界において書店側が初めて行ったストライキであり、「ブック戦争」という別名でも知られています。約12日間にわたり、一部の出版社の書籍や雑誌の販売を取りやめるという形で展開されました。

背景と経緯

ストライキに至る背景には、書籍の流通に関わる書店、出版社、そして出版取次の間のマージン配分に関する長年の課題がありました。

1970年には、書店の業界団体である日本書店組合連合会（日書連、現在の日本書店商業組合連合会）、出版社の業界団体である日本書籍出版協会（書協）、出版取次の業界団体である日本出版取次協会（取協）の三者間で、書店マージンを18%、取次マージンを7%とする覚書が交わされていました。しかし、この覚書が1972年6月末に期限切れを迎えるにあたり、同年4月にマージン率改定を巡る交渉が持たれました。

この交渉において、書店側の団体である日書連は書店マージンを25%への大幅な引き上げを求めましたが、出版社側の団体である書協はこれに応じず、ゼロ回答となりました。これを受け、日書連は9月1日から特定出版社の書籍・雑誌に対するストライキ計画を立てました。具体的には、出版取次からの書籍の受け入れを拒否し、顧客からの注文にも応じず、店頭在庫の陳列を取りやめるという方法が計画されました。

ストライキ実行を目前に控えた8月21日、書協は書店マージンを19%とする譲歩案を示しましたが、日書連はこれを拒否しました。日書連は最終的に、まず書店マージンを20%とし、さらに送料負担が大きい地方書店については1年以内にマージンを1%上乗せして21%とすることを要求しました。これに対し、書協は地方書店への上乗せ時期を2年以内とする回答をしました。この回答によって交渉は決裂し、日書連に加盟する8,800店以上の書店がストライキに突入することとなりました。

ストライキ中の展開と終結

ストライキが始まると、出版社側もこれに対抗しました。ストに参加した書店に対して、主要な16社が発行する新刊や既刊本の出荷を停止したのです。読者に対しては、出版社から直接郵送したり、ストライキに参加していない書店での購入を促したりしました。

事態を収拾するため、出版取次の団体である取協が仲介に乗り出しました。しかし、交渉は難航し、9月10日にはストライキは第二波に突入しました。

最終的に、取協は書店マージンを20%とすること、地方書店への上乗せ時期を1974年7月とすること（日書連は1973年4月、書協は1974年11月を要求していました）、そして既刊本（重版本）のマージン引き上げ時期を1973年1月1日とする斡旋案を提示しました。

この斡旋案が受け入れられ、9月12日の夜10時にストライキは終了しました。日書連は加盟各店に電報でスト終結を知らせました。

対象となった出版社と理由

このストライキでは、全ての出版社が対象となったわけではなく、特定の出版社やその商品が対象となりました。

第一波（9月1日開始）
岩波書店：新書・雑誌『世界』
講談社：文庫・児童書
白水社：全商品

第二波（9月10日開始）
第一波の対象に加え、以下の出版社・商品が追加されました。
小学館：辞典・事典・児童書
有斐閣：叢書・雑誌『ジュリスト』

（なお、第三波も計画されていましたが、スト終結により実施されませんでした）

日書連がこれらの出版社を対象とした理由としては、以下のような点が挙げられています。

岩波書店： 買切制を採用しており返本が認められていないこと、および卸値が高いこと。
その他の出版社： 書店マージン18%の取り決めを守らないケースがあったこと、返本時の対応に問題があったこと、そして業界内での発言力が大きいにも関わらず、ストライキ回避のための努力を怠ったと見なされたこと。

また、これらの出版社の社員に、書店員に比べて高額な賞与が支払われていたことも、書店側の不満の要因の一つとなったと言われています。

結果と影響

書店ストライキは書籍流通におけるマージンの問題に焦点を当て、一定のマージン引き上げという成果をもたらしました。しかし、このストライキを契機に、出版業界以外の資本による書店への新規参入が進むなど、書店組合にとっては必ずしも有利とは言えない状況も生まれた側面があります。日本の出版業界において、書店がその権利を主張するために取った歴史的な行動として、この書店ストライキは重要な出来事として記憶されています。

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