書物問屋

書物問屋とは

書物問屋とは、元和年間に京都で始まった、仏教書、儒学書、歴史書、辞書、医書、和古典書といった、内容の硬い書籍を専門に扱う問屋のことです。当初、これらの書籍は「物之本」と呼ばれていましたが、後に「書物」と呼ばれるようになり、これらの書籍を扱う店を書物問屋、または「書林」「書肆」と称するようになりました。書物問屋は、単に書籍を販売するだけでなく、出版も行う点が特徴です。

歴史

京都における書物問屋

貞享2年（1685年）の京都の案内書『京羽二重』には、京都の著名な書物問屋として、歌書の出雲寺和泉掾、法華書の平楽寺、儒医書の風月、安斎書の武村市兵衛、禅書の田原仁左衛門、真言書の前川権兵衛、真言書の中野小左衛門、法華書の中野五左衛門、一向宗の西村九右衛門、謡本の金屋長兵衛が挙げられています。正徳6年（1716年）には、京都の書物問屋同士による『仲間』の結成が認められ、組織化が進みました。

江戸・大坂への拡大

その後、書物問屋は江戸や大坂にも広まりました。江戸では、享保6年（1721年）8月に大岡忠相の主導で46軒の問屋による書物問屋仲間が結成されました。翌年には「寅年の禁令」により検閲が始まり、出版物の統制が行われました。大坂でも、享保8年（1723年）に問屋仲間が結成され、各地で書物問屋が組織化されていきました。

嘉永4年（1851年）の江戸には73軒の書物問屋があり、芝付近には和泉屋吉兵衛、和泉屋新八、岡田屋嘉七、和泉屋市兵衛、内野屋弥平治、万屋忠蔵などが存在しました。また、『解体新書』を刊行した日本橋の須原屋市兵衛や須原屋茂兵衛も著名な書物問屋として知られています。

明治維新後の変化

明治5年（1872年）4月、従来の書物問屋組合が改称し、東京書林組合が設立されました。この組合には多くの地本問屋も加入しましたが、政府の布告や禁令の徹底を目的とした消極的なものであったため、2年で解散しました。明治8年（1875年）には、出版条例によって旧来の組合が解散させられ、内務省が検閲を行う東京書林組合が再興されました。明治14年（1881年）には、地本を扱う本屋や新興の本屋が加わり、会員数206名による「東京書林組合」が再興されましたが、政治的な書物が流行する一方で、『当世書生気質』のような新興文学も出版されるようになり、時代の変化に対応できず、数年で解消されました。

近代への移行

明治20年（1887年）11月6日、「東京書林組合」を中心に「東京書籍出版営業者組合」が発足しました。明治35年（1902年）には「東京書籍商組合」となり、恒久的な組織となりました。大正8年（1919年）には全国書籍商聯合会が発足しましたが、大正12年（1923年）の関東大震災により多くの書物問屋が被災しました。その後、東京書籍商組合は再開しましたが、昭和16年（1941年）に解散しました。

全国書籍商聯合会は、昭和32年（1957年）に現在の日本書籍出版協会につながっています。

書物問屋の終焉とその後

書物問屋は、江戸時代から明治時代にかけて出版業界の中心的な役割を担っていましたが、時代の変化とともにその形態を変え、近代的な出版・流通システムへと移行していきました。

参考資料

今田洋三 『江戸の本屋さん‐近世文化史の側面』 NHKブックス、1977年
港区教育史編纂委員会編 『港区教育史』上下巻 港区教育史編纂委員会、1987年
小林忠　大久保純一　『浮世絵の鑑賞基礎知識』　至文堂、1994年
財団法人大倉精神文化研究所編 『大倉山論集』第五十四輯 財団法人大倉精神文化研究所、2008年

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