月山 (刀工)

月山（がっさん）

月山とは、鎌倉時代から室町時代にかけて出羽国月山（現在の山形県）を拠点に活躍した刀工の一派です。その技術と美しさは全国に知られ、現代においてもその伝統を受け継ぐ刀工が奈良県を拠点に活動を続けています。

概要

月山の刀工の祖は、伝承によれば月山の霊場に住んでいた鬼王丸（鬼神太夫）とされています。月山の麓では刀鍛冶が発展し、軍勝、寛安、近則、久利といった名工を輩出しました。鎌倉時代から室町時代にかけて、「月山」の銘が刻まれた刀剣は、実用性の高さと独特の「綾杉肌」の美しさで評判を呼びました。この刀工集団は「月山鍛冶」、彼らの作品は「月山物」と呼ばれ、珍重されました。

室町時代には、相州伝の刀工との技術交流があり、双方の合作による太刀も現存しています。戦国時代には、出羽国山形の領主であった最上義光が、織田信長への献上品として白鷹や馬と共に月山の刀工が打った槍10本を贈ったという記録が残っています。また、月山の麓にある慈恩寺には、1555年に刀工の月山俊吉によって作られた鋳鉄草木文透彫釣燈籠が今も残されています。慈恩寺の結界に当たる八鍬鹿嶋神社や、寒河江氏を庇護した長崎中山氏が守る平塩熊野神社にも、月山鍛冶が作成した燭台が現存しています。

しかし、戦国時代が終わり江戸時代に入ると、月山鍛冶は一時衰退しました。そのため、江戸時代初期以前の作品は特に「古月山」と呼ばれることがあります。

幕末になると、月山一門の弥八郎貞吉が大坂に移住し、以後、月山家は関西を拠点として作刀活動を行うことになります。

明治以降の発展

弥八郎貞吉の養子である弥五郎貞一（初代貞一、1836年-1918年）は、鍛刀と刀身彫刻に才能を発揮し、特に月山伝として知られる「綾杉肌」の復元に尽力しました。宮本包則と共に帝室技芸員に選ばれ、宮内省御用刀匠となり、愛刀家であった明治天皇の軍刀をはじめ、皇族や著名人のための刀を数多く制作し、その地位を確立しました。初代貞一は、平家重代の小烏丸を模した元帥刀を考案し、陸軍大学校の成績優秀者に卒業時に授与される恩賜の軍刀も作刀しました。

初代貞一の後も、長男の月山貞勝（1869年-1943年）や孫の月山貞一（二代貞一、1907年-1995年）といった名工が輩出されました。二代貞一は、昭和46年に重要無形文化財保持者（人間国宝）に認定されています。現代では、二代貞一の三男である月山貞利（1946年生、奈良県無形文化財、前全日本刀匠会会長）がその伝統を受け継いでいます。貞利の長男である貞伸（1979年生）も、2006年から本格的に作刀活動を始めています。

エピソード

松尾芭蕉の『奥の細道』には、「日出て雲消えれば湯殿に下る 谷の傍に鍛冶小屋と云有 此国の鍛冶霊水を撰て爰に潔斎して剣を打 終に月山と銘を切て世に賞せらる」と記されており、芭蕉が羽黒から月山を巡り、鍛冶小屋を見学した様子が描かれています。

また、大相撲の若乃花と貴乃花が横綱に昇進した際には、土俵入りに使用する太刀がそれぞれ月山家から贈られています。若乃花の太刀は二尺二寸八分（約69.1cm）で、銘には「堅忍不抜 為横綱若乃花勝」と、横綱昇進披露の際の若乃花の言葉が刻まれました（奈良新聞1998年8月29日付）。

その他

『今昔物語集』（12世紀前半・平安末期成立）には、鬼王丸の太刀を手にした山賊の話が記述されており、当時から月山の刀が名を知られていたことがわかります。

『遠野物語』には、金沢村の佐々木松右衛という家に代々伝わる「つきやま月山」という名の刀があり、宿銭不足のために刀を置いていったところ、刀が赤色の蛇となって戻ってきたという伝承が語られています。これは、月山のような名刀には霊力が宿り、蛇の姿となって主を守るという信仰を表しています。

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