ラディカル・フェミニズム

ラディカル・フェミニズムとは

ラディカル・フェミニズムは、リベラル・フェミニズムに対するアンチテーゼとして登場した、より急進的なフェミニズムの一形態です。社会変革と男女平等を強く訴える一方で、従来の左派やマルクス主義が女性に押し付けてきた補助的な役割や性的役割に対する失望から生まれました。この思想は、ラディフェミと略されることもあります。

概要

ラディカル・フェミニズムは、性支配を一元的に捉え、男性を抑圧者、女性を被抑圧者と見なします。男女間の利害は根本的に対立すると考え、リベラル・フェミニズムよりも差異を強調する分離主義的な立場を取ります。この思想は、女性という性別を重視し、「女性」という集団独自の存在意義を強く主張します。結婚、母性、異性愛、家族、性交といった制度は女性を抑圧し、現状に留めるための構造だと批判します。これらの制度は、家族単位で維持されていると考えられています。マルクス主義フェミニズムと同様に、ラディカル・フェミニズムは革命よりも改良を目指すリベラル・フェミニズムや、これらの制度に批判的な立場を取ります。

ラディカル・フェミニズムは、「異性愛至上主義」を批判し、男性との恋愛、結婚、家庭そのものを女性抑圧の根源と捉えます。「母性、結婚、売春は男性を支える組織であり、結婚は男性の性欲に奉仕する制度である」と主張します。ただし、これはフェミニストの間でも賛否が分かれる過激な主張であり、男性と恋愛する者や既婚女性を排除する動きにつながったため、組織内で対立や分裂が頻繁に発生しました。

新左翼・マルクス主義からの独立と対立

1960年代末、ラディカル・フェミニズムは、社会革命を目標とする新左翼運動の中で、男性から従来の補助的・性的役割を押し付けられた女性たちの失望から始まりました。1970年に出版されたケイト・ミレットの『性の政治学』と、シュラミス・ファイアーストーンの『性の弁証法』が、この思想の重要な支柱となっています。

ミレットは、「家父長制」を男性が女性に性的従属を強いるシステムと定義し、これが私的領域から公的領域にまで影響を及ぼしていると批判しました。男女の性差は家父長制の産物であると主張しました。また、ファイアーストーンは、女性の生殖能力も男性優位の階層構造を発展・維持させている要因であると論じました。マルクス主義フェミニズムは、マルクス主義の史的唯物論にラディカル・フェミニズムを取り入れたことで生まれましたが、マルクス主義フェミニズムはラディカル・フェミニズムを「観念論」と見なし、「市場」と「家族」の相互依存関係も問うべきと批判しました。さらに、新左翼・マルクス主義フェミニズム派が資本主義社会・企業のために女性を含めた労働者階級が抑圧されていると主張するのに対し、ラディカル・フェミニズム派は、マルクス主義の男性中心主義を指摘し、男性からの抑圧は資本主義社会だけでなく、マルクス主義の階級分析論においても女性こそが抑圧された階級であると主張し、対立しました。
日本では、1990年代にマルクス主義フェミニストの上野千鶴子とラディカル・フェミニストの江原由美子による論争が知られています。

マルクス主義フェミニズムとの共通点

反結婚・反専業主婦

ラディカルフェミニストの小倉千加子は、近代の枠組みを認める「保守」とリベラル・フェミニズムを例え、近代の枠組みを認めない「破壊」とラディカル・フェミニズムを例えています。2002年の著書で小倉は、リベラルフェミニズムが衰退し、ラディカルフェミニズムが勝利したと主張しています。また、夫が仕事と家事をし、妻が家事と趣味的な仕事をするという新専業主婦社会は実現しないと主張しています。ラディカルフェミニストは、マルクス主義フェミニストと同様に、結婚に否定的です。結婚しているにもかかわらずフェミニストを自称する女性に対し、結婚制度を擁護しているとして批判的な見解を述べています。マルクス主義フェミニストの上野千鶴子も、結婚とフェミニズムは相容れないとし、フェミニストと自認する専業主婦について論理矛盾があると強く批判しています。

ラディカル・フェミニズムは、「個人的なことは政治的である」というスローガンの下、女性の抑圧は他の抑圧に還元できない独自の現象だと主張しています。従来のリベラル・フェミニズムが女性の地位向上や社会参加のための法的平等を要求するのに対し、ラディカル・フェミニズムは活動家が「女性差別的」と判断した文化や慣習の排除を求めます。

反ポルノ（反AV）・反セックスワーク

ラディカル・フェミニズムを象徴するものとして、性に肯定的な立場をとるフェミニストと対立するポルノグラフィ撲滅運動があります。ラディカル・フェミニストは、ポルノグラフィに出演した女性の被害例や、ポルノグラフィが男性による性犯罪、ドメスティックバイオレンス、セクシャルハラスメントを助長するという強力効果論を主張します。また、ポルノグラフィの存在を社会的に容認することは女性蔑視を再生産するものとし、女性解放の障害として厳罰を伴う法的規制を求めています。1980年代には、キャサリン・マッキノンとアンドレア・ドウォーキンらが展開した『反ポルノグラフィ公民権条例』運動が有名です。この運動は、日本のラディカル・フェミニズム団体にも大きな影響を与えています。

マルクス主義フェミニストの上野千鶴子は、性交渉自体は否定しないものの、「そのセックスは楽しいのか？」と問いかけ、セックスワークには否定的な立場を取っています。

批判

2022年6月、フェミニストの室井佑月は、AV出演被害防止・救済法の成立に反対する一部のフェミニストに対し、「女性は未熟だから契約できないとするのは、家父長制度に賛同するのではないか」と批判しました。また、ラディカル・フェミニストを批判すると、「アンチフェミニスト」「ミソジニスト」とレッテルを貼られ、ネットリンチを受けると述べています。室井は、ラディカル・フェミニストの行き過ぎたやり方を、戦時中の同調圧力に似ているとし、「自分の間違いを認めず、言葉を鎧のように使う人は、自分だけが正義だと思い込んでいる」と批判しました。

代表的なラディカルフェミニスト

ケイト・ミレット
シュラミス・ファイアーストーン
メアリ・デイリー
キャサリン・マッキノン
アンドレア・ドウォーキン
スーザン・ブラウンミラー
ナバネセム・ピレー
グロリア・スタイネム
角田由紀子
小倉千加子
江原由美子
中里見博
北原みのり

ラディカルフェミニズム団体・サイト

メガリア/WOMAD - 韓国のラディカル・フェミニズム・コミュニティ
イクオリティ・ナウ
ポルノ・買春問題研究会
ヒューマンライツ・ナウ

関連文献

マギー・ハム著、木本喜美子・高橋準監訳、『フェミニズム理論辞典』、明石書店、1999/07
吉沢夏子、『女であることの希望　ラディカル・フェミニズムの向こう側』、勁草書房、1997/03
ナディーン・ストロッセン著、松沢呉一監修、岸田美貴訳、『ポルノグラフィ防衛論ーアメリカのセクハラ攻撃・ポルノ規制の危険性』、ポット出版、2007/10
アンドレア・ドウォーキン著、寺沢みづほ訳、『ポルノグラフィ－女を所有する男達』、青土社、1991/04

関連項目

フェミニズム
リベラルフェミニズム
ミサンドリー/差異派フェミニズム
ミソジニー
マルクス主義フェミニズム/上野千鶴子
純潔運動/貞操
廃娼運動/買春/売春
フェミナチ
国連女子差別撤廃委員会(CEDAW)
ポルノ・買春問題研究会/イクオリティ・ナウ
フェミニスト・イニシアティヴ
ポルノグラフィ/悪書追放運動/白ポスト
性的対象化/表現規制/ 萌え絵/ 萌え絵批判
トランス排除的ラディカルフェミニスト/LGBT/性的少数者/トランスジェンダー
セクシャルハラスメント/＃MeToo
ミス・コンテスト/ミスキャンパス
ロリータ・コンプレックス

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