有田中井手の戦い

有田中井手の戦い：毛利元就の初陣と武田氏の衰退

有田中井手の戦い（ありたなかいでのたたかい）は、戦国時代の永正14年（1517年）に安芸国で起こった合戦で、有田合戦とも呼ばれます。この戦いは、尼子氏の支援を受けた武田元繁が、旧安芸守護としての勢力回復を図り、吉川氏の有田城を攻めたことが発端となり勃発しました。特に、毛利元就の初陣として知られ、戦国時代の勢力図を大きく変えることになった重要な戦いです。

戦いの背景

大内義興の上京と武田元繁の帰国

永正5年（1508年）、周防国の大内氏の影響下にあった武田元繁は、大内義興が将軍足利義稙を奉じて京都に出陣した際、これに従軍しました。しかし、大内氏の主力軍が京都にいる間、安芸国では尼子経久の策略によって紛争が多発しました。これに対し、大内義興は武田元繁を帰国させ、事態の収拾を図りました。義興は元繁に期待を寄せ、権大納言飛鳥井雅俊の娘を養女として元繁に嫁がせ、その活躍を後押ししました。

武田元繁の勢力拡大と独立の動き

永正12年（1515年）、帰国した武田元繁は、大内氏の主力が不在の好機と捉え、旧安芸守護職の権威を取り戻すべく行動を開始しました。まず、大内氏との関係を断ち、尼子経久の弟の娘を妻に迎え、尼子氏の支援を得て大内義興からの独立を宣言しました。その後、厳島神社の神領を接収し、大野河内城、己斐城、水晶城を次々と攻略。さらに、桜尾城を攻めるも落城には至りませんでした。一方、大内氏側は山県郡有田への出陣を毛利興元と吉川元経に命じ、これに対抗しました。

しかし、永正13年（1516年）8月、毛利興元が死去し、わずか2歳の幸松丸が当主となったため、叔父の毛利元就が後見役となりました。若年の元就は戦の経験が浅く、家中には動揺が広がりました。武田元繁はこの状況を好機と見て、攻勢を強めました。

戦いの経過

前哨戦と両軍の動き

永正14年（1517年）2月、武田元繁は山県郡今田城に進出し、周辺の豪族に服属を呼びかけました。これにより、熊谷元直、香川行景、己斐宗瑞らが合流し、5,000以上の大軍となりました。同年10月3日、元繁は小田信忠が守る有田城を包囲しました。一時は降伏勧告もあったものの、元繁が拒否したとされています。10月21日には、武田軍の一部が毛利領の多治比に侵攻し、挑発を行いました。これに対し、毛利元就は150騎を率いて武田軍を撃退しました。

本戦：有田中井手での激戦

10月22日、毛利・吉川連合軍は有田へ進軍し、熊谷元直率いる武田軍と対峙しました。当初は遠距離攻撃で対抗しましたが、挟撃を恐れ、連合軍は肉弾戦を開始しました。熊谷元直は、連合軍を侮り、単独で前線に出て指揮を取っていましたが、不運にも矢が額に命中し、討ち死にしてしまいました。この熊谷元直の死により、武田軍は一時的に潰走しました。

激怒した武田元繁は、伴繁清、品川信定らと共に、4,000の兵を率いて連合軍を迎え撃ちました。武田軍は5段構えの鶴翼の陣形を敷きましたが、毛利・吉川連合軍は必死の抵抗を続けました。小田勢も有田城から打って出ましたが、武田軍の圧倒的な兵力の前に後退を余儀なくされました。しかし、毛利元就の激励により、戦線を押し戻し始めました。武田元繁は自ら最前線に出て又打川を渡ろうとしましたが、毛利軍の弓の一斉射撃により落命しました。元繁を討ち取ったのは、毛利軍の井上光政であったとされています。

戦後と武田氏の衰退

大将を失った武田軍は総崩れとなり、今田城に撤退しました。残った武田軍の武将たちは、再戦か退却かで意見が対立しましたが、香川行景と己斐宗瑞が翌日、毛利軍に突撃して討ち死にしたことで、武田軍は壊滅しました。

戦いの影響とその後

この戦いは、後に「西の桶狭間」とも呼ばれ、武田氏の衰退と毛利氏の台頭の転換点となりました。武田元繁や熊谷元直、香川行景らを失った武田氏は急速に衰退し、やがて毛利氏によって滅ぼされました。初陣で旧守護の元繁を討ち取った元就の名は一躍有名になり、その後の毛利氏の発展につながる大きな契機となりました。

現在、有田城周辺には、武田元繁、熊谷元直、己斐宗瑞らの石碑が建てられ、この戦いの歴史を今に伝えています。

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