有賀・喜多野論争

有賀・喜多野論争に関する詳細

概要

有賀・喜多野論争は、社会学者である有賀喜左衛門と喜多野清一との間で、1960年代に繰り広げられた、家族と家の本質についての意見の対立です。この論争は、文化人類学の理論や家族社会学に深く関わり、両者の立場は単に学術的なものにとどまらず、社会における人々の生活様式や価値観にまで影響を与えました。

論争の発端

この論争は、まず戸田貞三の小家族理論と、その理論を支持する喜多野の意見が出発点となりました。そして、有賀は、文化人類学者ジョージ・マードックによる核家族論を引き合いに出し、家族と家についての自身の定義を展開しました。これに対し、喜多野が反論する形で意見を発表しました。

有賀喜左衛門の主張

有賀は「家族」という概念について、共通の文化的背景を持つ「family」への対応と考えました。彼は「家」を、日本特有の家族現象として定義し、夫婦関係を基盤としながら非血縁者を含むコミュニティとしました。この「家」は、経済、法律、信仰など、個人の生活に欠かせない機能を満たすための集団であり、非親族をも成員として迎え入れます。

さらに、有賀は家の成員を嫡系と傍系に分類し、家は単なる個人の結びつきではなく、家産や家業を運営するための集団であると主張しました。彼の定義では、家は社会の中での生活の基本単位であり、成員の生死を超えて連綿と続くことを目指しています。

喜多野清一の主張

一方で、喜多野は「家族」を夫婦や親子を中心とした近親者による全人格的な結束に基づく小さい結合と捉えました。「家」という概念については、普遍的な小家族の結合に加え、家長権のもとで成立する歴史的な要素も含まれるとしました。このように、喜多野は家庭制度を非常に複雑なものとして理解しています。

彼によれば、家は家族の一つの歴史的形態であり、家父長的な権力の下に構築され、その目標は集団成員の生活保障にあります。彼の視点では、家族の結合は単なる生理的あるいは経済的な基盤を超えて、文化的な価値観や社会的な役割の中で意味を持つものです。

論争の影響と評価

この論争は、それぞれの立場からの深化した議論を生み出し、社会学、文化人類学、家族社会学における重要な理論的基盤となりました。その後の学問の進展においても、両者の理論は多くの研究者によって引き合いに出され、家族や家庭の理解が広がる契機となっています。

特に、家族とは何か、またそれが社会の中でいかに機能するかという問いに対し、多面的な視点を提供するものとなりました。日本において、家族制度やそのあり方を考える際に、この論争の成果は今なお影響を及ぼしています。

参考文献

• - 喜多野清一「親方子方関係論の問題点（上）」(1981年)
• - 有賀喜左衛門『家』（1972年）
• - 福田アジオ他編『精選日本民俗辞典』（2006年）
• - 青山道夫「日本の「家」の本質について」（1976年）

関連項目

• - イエ・ムラ理論
• - 家族社会学
• - 家族
• - 核家族

この論争を通じて、家族や文化、社会の構成についての理解が深まり、我々の日常生活における家族の役割についても再考する機会を提供しています。

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