有馬頼徸

有馬頼徸：算学に通じた大名

有馬頼徸（ありま よりゆき）は、江戸時代中期に筑後国久留米藩を治めた第7代藩主であり、同時に優れた数学者（和算家）としても名を馳せました。彼は「算学大名」と称されるほど数学に精通しており、藩主としての顔と研究者としての顔を併せ持っていました。

生涯

正徳4年（1714年）に第6代藩主・有馬則維の四男として生まれた頼徸は、享保14年（1729年）に16歳で家督を継ぎました。若年であったため、当初は重臣たちが藩政を代行しましたが、元文2年（1737年）からは自ら政務を執り始めました。

藩主として最初に直面した課題は、就任した年に発生した飢饉でした。頼徸は領民を救済するため、救済金や救済米を支給するなど、積極的に対策を講じました。また、領民からの意見を広く集めるために目安箱を設置し、猿楽などの娯楽を奨励することで、庶民の生活向上にも努めました。

しかし、頼徸の善政にも関わらず、九州各地で発生した飢饉の影響から、久留米藩でも百姓一揆が起こってしまいます。この事態に対し、頼徸は一揆の首謀者だけでなく、藩の責任者である家老までも処刑するという厳しい措置を取りました。一方で、処刑された人々を慰霊するため、五穀神社祭礼を行うなど、両面からの施策を行いました。

天明3年（1783年）、70歳でこの世を去り、跡を長男の頼貴が継ぎました。

学問藩主としての功績

頼徸は、有職故実や法令にも精通しており、特に学問においては卓越した才能を発揮しました。中でも和算（日本の伝統的な数学）に造詣が深く、関流算術を山路主住に師事して学びました。その結果、円周率の計算においては、当時52桁までしか算出されていなかったものをさらに30桁も追加し、小数の計算まで可能にするという画期的な成果を上げました。明和6年（1769年）には、豊田文景という筆名で、自らの研究成果をまとめた和算書『拾璣算法』5巻を著しました。この書物は、関孝和の算法をさらに発展させたもので、当時の数学界に大きな影響を与えました。

高い評価と影響

頼徸の才能は幕府にも認められ、増上寺の御火消役という重要な役職に任じられました。また、官位も歴代藩主よりも高い左少将に叙任されるなど、異例の厚遇を受けました。さらに、将軍が狩猟で仕留めた鶴を拝領できる「国鶴下賜」を3度も受けるという栄誉にも浴しました。この「国鶴下賜」は、徳川御三家や一部の大藩のみに許されるもので、頼徸は名実ともに大大名と肩を並べる存在として認められたことになります。

54年という長期にわたる治世は、彼の優れた為政者としての手腕を示すものであり、久留米藩の藩政は安定しました。その治績から、頼徸は「久留米藩の吉宗」とまで賞賛されました。また、同時期に活躍した新発田藩の溝口直温、松江藩の松平宗衍と並んで「風流三大名」と称えられました。

系譜

父：有馬則維（1674-1738）
母：小林氏
正室：豊子女王 - 京極宮家仁親王の第一王女
側室：奥田氏
長男：有馬頼貴（1746-1812）

有馬頼徸が登場する作品

『算法少女』 - 遠藤寛子の児童小説。和算を題材としている。
『二十一万石の数学者』 - 有馬頼徸を主人公にした新田次郎の短編小説。
『天に星 地に花』 - 帚木蓬生の小説。

参考文献

Döll, Steffen; Hinz, Andreas M. (2018). “Kyū-renkan – the Arima sequence”. In Ogawa, T.; Morimoto, M.. Mathematics of Takebe Katahiro and History of Mathematics in East Asia. Advanced Studies in Pure Mathematics. 79. Tokyo: Mathematical Society of Japan. pp. 321-335

外部リンク

* 日本人名大辞典+Plus、世界大百科事典 第２版『有馬頼徸』 - コトバンク

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