朝鮮労働党作戦部とは？意味をやさしく解説

朝鮮労働党作戦部：北朝鮮の秘密工作機関

朝鮮労働党作戦部は、かつて北朝鮮に存在した情報機関で、スパイの浸透、破壊工作、要人暗殺などを担当していました。他の党諜報機関とともに「三号庁舎」とも呼ばれ、その中でも最大規模を誇っていました。2009年に党対外情報調査部と軍総参謀部偵察局が統合され、朝鮮人民軍偵察総局が発足したことで、発展的に解消されました。

組織概要

作戦部は、韓国や日本へのスパイ派遣、工作船や潜水艇による浸透作戦、そして日本人拉致事件などの実行機関として活動していました。最盛期には3000人近い要員が所属し、傘下には324連絡所、414連絡所、器材連絡所、三池淵連絡所、915病院、金正日政治軍事大学などが存在しました。これらの施設は、作戦部の活動を支える重要な拠点でした。

主要な活動拠点

314連絡所

3号庁舎内に位置し、旅券、ドル紙幣、韓国紙幣、各種証明書、書類の偽造を担当していました。偽造文書は、工作員の潜入や活動を支援するために不可欠でした。

414連絡所

作戦部傘下のこの連絡所は、通信指令、無線傍受、暗号通信、偽札印刷、スパイ装備の製作、偽造パスポートの作成など、多岐にわたる活動を行っていました。北朝鮮全域に40か所以上の分所を持ち、工作員とは別に、学者や技術者を含む約600人が機材製作に従事していました。

偽札印刷

北朝鮮は1970年代から偽札製造を行っていましたが、1980年代後半からは外貨獲得のため大規模な生産体制に移行しました。偽100ドル札は外交官の外交行嚢で密輸され、闇ドル商を通じて本物のドルに交換されていました。偽札の製造技術は非常に高く、複数の偽造紙幣鑑別機でも判別できないほどでした。印刷機やインクはヨーロッパから輸入していました。

通信連絡

海外の工作員や協力者との通信には、暗号放送が用いられていました。また、海外の放送や通信を傍受・分析し、情報収集も行っていました。

印刷

偽札の他にも、偽造旅券、偽造住民登録証、偽造運転免許証、対南宣伝ビラ、主体思想宣伝冊子など、工作に必要なあらゆる印刷物を作成していました。

915病院

工作員、工作員養成機関（金正日政治軍事大学）の教官・学生、拉致被害者外国人のための病院でした。一般治療だけでなく、毒薬、劇薬、テロ装備、麻酔剤、麻薬・覚醒剤の製造も秘密裏に行っていました。麻薬製造部門には250名が従事し、阿片の原料となるケシを大規模に栽培していました。製造された麻薬は、工作船で海外に運ばれ、外貨獲得や武器、ココム製品との交換に利用されていました。

金正日政治軍事大学

工作員の養成機関であり、入学は本人の意思ではなく、当局の召喚によって決定されます。入学者の多くは、自分が工作員養成機関に入学したことを知らないまま教育を受けます。大学内には、病院も併設されています。

陸上連絡所と海上連絡所

開城、沙里院、平康郡には陸上連絡所が、清津、元山、南浦、海州には海上連絡所が設置され、工作員の侵入を支援していました。海上連絡所は数百隻の工作船を所有し、漁船に偽装して日本、東南アジア、中東に出入りしていました。南浦連絡所は貿易船『東建愛国号』を、金正日政治軍事大学は『勝利号』を所有していました。

歴代部長

作戦部の部長は、以下の人物が務めました。

李完基
任浩君
呉克烈

まとめ

朝鮮労働党作戦部は、北朝鮮の秘密工作を担う中心的な機関でした。その活動は多岐にわたり、スパイ工作から偽札製造、麻薬密売まで、広範囲に及んでいました。現在は解体されていますが、その活動は北朝鮮の歴史において重要な位置を占めています。

参考資料

安明進『北朝鮮拉致工作員』徳間書店、2000年
安明進『新証言・拉致』廣済堂出版、2005年
康明道『北朝鮮の最高機密』文藝春秋、1998年
金賢姫『金賢姫全告白いま、女として』文藝春秋、1991年
清水惇『北朝鮮情報機関の全貌』光人社、2004年
高沢皓司『宿命-「よど号」亡命者たちの秘密工作』新潮社、2000年
張龍雲『朝鮮総連工作員』小学館、1999年
全富億『北朝鮮の女スパイ』講談社、1994年
全富億『北朝鮮のスパイ戦略』講談社、2002年
西岡力、趙甲濟『金賢姫からの手紙』草思社、2009年
李友情作・漫画『マンガ金正日入門』飛鳥新社、2003-2004年
別冊宝島編集部編『決定版! 北朝鮮ワールド』宝島社、2003年

朝鮮労働党作戦部