915病院

915病院：北朝鮮工作員の影に隠された秘密の病院

915病院は、北朝鮮の首都平壌に位置する、工作員専門の病院です。正式名称は「朝鮮労働党915連絡所」とされ、「915研究所」とも呼ばれています。この病院は、一般の北朝鮮市民にはほとんど知られておらず、その存在は厳重に秘匿されています。

概要

915病院は、主に以下の対象者のために存在します。

北朝鮮の工作員
工作員養成機関である金正日政治軍事大学の教官と学生
招待所に滞在する拉致被害者の外国人

この病院に入院できるのは、工作員の配偶者のみで、子供であっても特別な場合を除き許可されません。これは、病院の機密保持が非常に徹底されていることを示しています。病院は、金正日政治軍事大学から南南西約1.8キロメートルに位置し、小高い丘陵に囲まれており、外部から内部を窺い知ることは困難です。

病院の建物は、以下のように配置されています。

病院本部：病院の中核を成す建物
学生・外国人専用病棟：病院本部の北に隣接
工作員専用病棟：病院本部から離れた南方に分散して立地（6～7棟）
医師居住区：病院本部の東西両側
麻薬研究所：病院本部の東北東

病院の敷地全体は二重三重の鉄条網で囲まれ、一個中隊の兵力が警備にあたっています。正門と麻薬研究所前には警備詰め所があり、常に2名の兵士が立哨しています。

病院の役割

915病院は、単に患者の治療を行うだけでなく、工作員の身体的な特徴を消すための整形手術も行っています。多くの工作員が、何らかの手術を受けていると言われています。また、この病院では、各種の毒薬、劇薬、テロ装備、麻酔剤、麻薬・覚醒剤などが秘密裏に製造されています。

機密保持

この病院は、海外工作や対南工作に従事する工作員をはじめ、多くの秘密要員が頻繁に出入りするため、当局は機密保持に非常に神経を尖らせています。工作員候補の学生は、軽傷であれば金正日政治軍事大学構内の「695病院」で治療を受けますが、重傷の場合は915病院で治療を受けます。病院内では無断外出が禁止されており、入院患者の歩く通路も決められています。患者は、男女の区別がつかないように大きめの入院服を着用し、顔を隠すための保安帽を被るように指示されます。しかし、長期入院患者や高齢の工作員、外国人患者は、この規則を遵守しない場合が多かったようです。

麻薬製造

915病院には、約250名が従事する麻薬製造部門があります。病院敷地内では、阿片の原料となるケシが栽培されています。北朝鮮では、咸鏡南道長津郡と赴戦郡一帯にケシの大規模な農園がありますが、「白桔梗農園」という偽名で隠蔽されています。ケシの汁は現地で一次加工され、阿片として915病院に運ばれ、ヘロインなどの麻薬に二次加工されます。最終製品は、粉末、注射器、錠剤などの形態で、二重のビニールパックに入れられます。阿片の危険性があまり知られていないため、工作員はこれを痛み止めとして使用することがあります。

915病院で製造された麻薬や覚醒剤は、工作船によって日本、東南アジア、中東、ラテンアメリカなどに運ばれ、外貨獲得や武器、ココム製品との交換に利用されています。安明進氏の証言によれば、日本の暴力団を招き、質の高い麻薬製造の研究が行われていたこともあったそうです。

麻酔剤と拉致

915病院では、拉致に使用される強力な麻酔剤も製造されています。金正日政治軍事大学では、この麻酔剤を用いた拉致の実習が行われます。麻酔剤は、布に染み込ませて対象者の口を塞ぎ、気絶させてから袋を被せるという手順がマニュアル化されています。麻酔剤は使い捨てのおしぼりのような形で保管されたり、錠剤として保管されたりします。錠剤の場合は、15°C以下の温度で保管し、使用直前に布や紙に包んで手で溶かして使用します。

拉致被害者との関係

915病院には、拉致被害者も入院することがあります。金賢姫の回顧録によれば、拉致被害者の田口八重子（李恩恵）が、腰痛治療のために915病院に入院した際、普段痩せていた彼女が血色が良くなり、太っていたと記されています。また、帰国した拉致被害者の一人は、田口八重子と横田めぐみが同居生活を送っていた際に、田口が腰痛で915病院に入院したことを証言しています。脱北者の安明進氏は、自身が915病院に入院した際に、拉致被害者の古川了子を目撃したと証言しています。古川は「915」の数字が書かれたガウンを着ていましたが、保安帽は被っていませんでした。

915病院は、工作員とその関係者の治療を担う一方で、麻薬製造や拉致にも関与している、極めて秘密性の高い病院であると言えるでしょう。

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