木彫りの熊

北海道を代表する木彫りの熊

木彫りの熊は、北海道を代表する郷土玩具・民芸品であり、その愛らしい姿は多くの人に親しまれています。熊の様々な姿態を表現した木彫りは、ポーズや表情が一つ一つ異なり、その彫り方にも地域ごとの特徴が見られます。

起源

木彫りの熊の起源は、大正13年（1924年）に徳川義親の提唱により、開拓民の副業として八雲村の「徳川農場」で試作されたことに始まります。北海道はかつて「郷土玩具不毛の地」と言われていましたが、昭和に入ってから全国的に知られるようになり、戦後の観光ブームに乗って人気を博し、昭和40年代にピークを迎えました。現在では、アイヌの伝統工芸品としてのイメージも強いですが、伝統的なアイヌ文化においては、写実的な造形は魂が宿り悪さをすると考えられていたため、動物や人物をリアルに彫ることはありませんでした。しかし、続縄文時代や擦文時代の遺跡からは、熊をモチーフにした意匠の遺物が出土しており、アイヌ文化においても儀礼的な道具には熊の姿を彫ることがありました。

木彫り熊誕生の背景

現在の木彫り熊のルーツは、尾張徳川家の当主であった徳川義親が、1921年から1922年の欧州旅行でスイスのベルンで購入した木彫りの熊のお土産にあります。1923年、徳川義親は北海道の八雲町にあった農場「徳川農場」に木彫りの熊を送りました。そして、農場で働く人々や近隣のアイヌの人々に冬の収入源として木彫りの熊の製作を奨励しました。1924年、第一回八雲農村美術工芸品評会で、北海道で最初に作られた木彫りの熊が出品され、1927年には展覧会で入賞し、秩父宮雍仁親王に献上されました。1928年には八雲開墾50周年を記念して木彫り熊展覧会が開かれ、八雲の木彫り熊は次第に世に知られるようになり、昭和初期には年間5,000体も生産されるまでになりました。

衰退と再評価

しかし、八雲町での木彫り熊の生産は次第に衰退し、現在では生産者はごくわずかとなっています。八雲町には2012年に八雲木彫り熊資料館が開設され、徳川義親が持ち帰ったスイスの木彫り熊や北海道第一号の木彫り熊など、数多くの木彫り熊が展示されています。また、資料館のある八雲町公民館の敷地内には、木彫り熊北海道発祥記念碑も建てられています。

一方、旭川市でも1926年にアイヌの松井梅太郎が木彫り熊を作り始め、それがきっかけで木彫り熊の生産が盛んになりました。当時は旭川に第七師団があり、本州から来た軍人家族などが土産物として購入していたようです。旭川の木彫り熊は、八雲の影響を受けているという説と、独自に発展したという説があります。1936年には昭和天皇が北海道を訪問した際、八雲と旭川から木彫り熊が献上されました。

現在の木彫りの熊

一時は隆盛を誇った木彫りの熊ですが、現在では土産物としての人気は落ち着き、職人の数も減少しています。しかし、近年では伝統的な美術工芸品として再評価され、研究も進んでいます。コレクターも存在し、様々なアレンジを加えた作品も多く見られるようになりました。「鮭を背負う熊」や「鮭に噛まれる熊」、「コイキングとぶつかる熊」など、ユーモラスな作品も生まれています。また、デフォルメされたぬいぐるみなども存在し、その人気は多岐にわたります。

木彫りの熊は、その歴史と多様な表現を通して、北海道の文化を伝える大切な存在です。

参考資料

畑野栄三『全国郷土玩具ガイド 1』婦女界出版社、1996年。
木下亀城、篠原邦彦『日本の郷土玩具』保育社〈カラーブックス 10〉、1976年。
山本鉱太郎『郷土玩具の旅 - 東日本編』保育社〈カラーブックス 386〉、1977年。
八雲町木彫り熊資料館 八雲町
* 本場の木彫りの熊2014 デイリーポータルZ：@nifty

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