末梢静脈カテーテル

末梢静脈カテーテルとは

末梢静脈カテーテル（まっしょうじょうみゃくカテーテル、または末梢血管内カテーテル）は、医療行為において患者さんの静脈内に留置される、細く柔軟な管状の医療材料です。主に、点滴による薬剤や輸液、輸血などを血管内に直接投与する目的で使用されます。「静脈留置針」あるいは単に「留置針」と呼ばれることが一般的です。また、「（末梢）静脈ライン」という言葉が使われることもありますが、これはカテーテルだけでなく、点滴セット全体を指す場合もあります。

使用方法と挿入部位

カテーテルを挿入する手順は、採血の際に針を刺すのと似ています。まず、専用の針を使って皮膚を通して静脈にアクセスします。血管内に適切に挿入されたことを確認した後、針だけを抜き取り、血管内に柔らかいプラスチック製のカニューレ（カテーテル本体）だけを残します。このカニューレが点滴ルートや注射器と接続され、薬剤などを投与できるようになります。挿入されたカテーテルは、患者さんの皮膚に医療用テープで固定するか、専用の粘着性のある創傷被覆材（ドレッシング材）を使用して動かないように固定されます。

挿入される部位は、通常、手や腕にある末梢静脈が選ばれます。小児など、痛みに敏感な患者さんの場合は、挿入部位に局所麻酔薬（リドカインなど）を含むテープ剤を事前に貼り付け、痛みを和らげて挿入を容易にすることもあります。

医療現場での重要性

末梢静脈カテーテルは、医療現場で最も頻繁に使用される血管アクセス方法の一つです。救急外来で搬送される患者さんや、外科手術を受ける患者さんのほとんどに留置されます。また、放射線造影剤を用いた画像診断検査の前に使用されることもあります。米国では、1990年代には年間2,500万人以上の患者さんに末梢静脈ラインが確保されていたと報告されており、その利用頻度の高さが伺えます。

その他の用途

静脈内投与以外にも、末梢静脈カテーテルは採血のために使用されることがあります。また、まれに血圧測定や採血のために動脈に留置されるケースもあります。

さらに、末梢静脈カテーテルが緊急処置として用いられる例として、緊張性気胸（肺と胸壁の間に空気が貯留し、肺が圧迫される状態）の治療があります。根本的な治療法は胸腔ドレーンの挿入ですが、緊急で胸腔内の圧力を下げる必要がある場合に、鎖骨の中央線の第2肋間に末梢静脈カテーテルを一時的に挿入することがあります。

中心静脈カテーテルとの違い

末梢静脈カテーテルは、文字通り体の末梢にある静脈に挿入されるのに対し、中心静脈カテーテルは首の内頸静脈や胸の鎖骨下静脈といった、心臓に近い太い血管（中心静脈）に挿入される点で区別されます。用途や管理方法も異なります。

起こりうる合併症と管理

末梢静脈カテーテルの挿入時や留置中には、いくつかの合併症が発生する可能性があります。例えば、挿入部位の感染、血管の炎症（静脈炎）、点滴液が血管外に漏れる点滴漏れ、血管内への空気の混入（空気塞栓症）、出血、そして皮膚の下に血がたまる血腫形成（いわゆる青あざ）などが挙げられます。

中でも注意が必要な合併症としてカテーテル塞栓症があります。これは、カテーテルの一部が何らかの原因で切れてしまい、血管内を流れてしまう状態です。そのため、カテーテルを抜去する際には、先端部分が完全に残っているかを確認することが重要です。

感染予防の観点から、アメリカ疾病予防管理センター（CDC）はガイドラインで原則として96時間ごとのカテーテル交換を推奨しています。しかし、必ずしもすべてのカテーテルをルーチンで交換する必要があるかについては、専門家の間でも議論があるところです。適切な知識と技術を持った医療従事者が管理することで、末梢ラインに関連する合併症のリスクを低減できることが示されています。カテーテルの固定に用いるドレッシング材や固定具の種類による優劣については、現時点では明確な結論は出ていません。

サイズ表記

末梢静脈カテーテルのサイズは、一般的に「ゲージ（G）」または「フレンチスケール（Fr）」という単位で表されます。針やカニューレの直径は、フレンチスケールでは数値に比例して太くなりますが、ゲージでは数値に反比例して細くなるのが特徴です。

歴史と素材の進化

プラスチック製のカニューレを血管内に留置し、針を抜くという現代の基本的な技術は、1945年に導入されました。初めて商業的に販売された使い捨てタイプの末梢静脈カテーテルは、1964年に登場した「アンジオキャス」です。1970年代から1980年代にかけて、プラスチック製カニューレの利用は日常的になり、その挿入業務は看護スタッフに委ねられることが増えました。

初期の末梢静脈カテーテルはポリ塩化ビニル製でしたが、素材は進化を続けています。1983年にはポリウレタン製が登場し、現代ではテフロンなどの合成ポリマーで製造されるのが主流となっています。そのため、これらのカテーテルは製品名に由来して「ベンフロン」や「キャスロン」といった通称で呼ばれることもあります。

また、近年製造されるカテーテルには、医療従事者が針刺し事故を起こすリスクを減らすための安全機能が追加されています。このように、末梢静脈カテーテルは、医療の発展とともに改良が進められてきた重要な医療デバイスです。

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