末森城の戦い

末森城の戦い

天正12年（1584年）9月9日（新暦10月12日）、能登国（現在の石川県羽咋郡宝達志水町）に位置する末森城で繰り広げられた攻城戦は、同時代の「末森の合戦」とも称されます。この戦いは、当時の日本を二分していた羽柴秀吉と織田信雄・徳川家康連合軍が尾張国（現在の愛知県）の小牧・長久手で激突していた状況と深く関連しています。

戦いの背景

小牧・長久手の戦いが長期化する中、越中国（現在の富山県）を拠点としていた佐々成政は、当初こそ羽柴秀吉からの要請に応じ、一部の兵を羽柴軍に派遣していました。しかし、夏に北陸地方の部隊が帰国し、特に佐々家臣の佐々平左衛門が羽柴軍の苦境を伝えたことで、成政の心境に変化が生じたと推測されます。彼は、織田・徳川連合軍からの誘いに応じ、秀吉方につく前田利家を攻撃する決断を下したのです。

前哨戦と攻囲

佐々成政は、前田利家の領国である加賀・能登の連携を断つことを目論みました。その前触れとして、8月28日には前田方の朝日山城（石川県金沢市）を突如襲撃しましたが、これは城を守る村井長頼の奮戦により退けられています。

そして迎えた9月9日、成政は宝達山を越え、坪山砦に本陣を置き、およそ15,000もの大軍を率いて末森城を完全に包囲しました。前田利家が金沢から増援を送る可能性を警戒し、能登側の北川尻には神保氏張を配置して厳重な監視体制を敷きました。

末森城の激戦

包囲の翌日、9月10日、佐々軍は総攻撃を開始しました。末森城には、城将である奥村永福と千秋範昌を中心に、わずか300人の兵が立て籠もっていました。数に圧倒的な差がある中、籠城軍は必死の抵抗を展開しましたが、戦況は圧倒的に佐々軍に有利に推移しました。前田家の城代を務めていた土肥次茂（土肥親真の弟）が討死するなど、城はまさに落城寸前の危機に瀕していました。

前田利家の救援と逆転

加賀国の金沢城で末森城の窮状を知った前田利家は、直ちに兵2,500人を率いて救援に向かいました。通常の道ではなく、地元の農民である桜井三郎左衛門の案内を受け、佐々軍の警戒が手薄な海岸沿いの道を選んで進軍。北川尻の監視網を巧みに突破し、今浜まで到達しました。

そして9月11日未明、夜闇に紛れて末森城に殺到していた佐々軍の背後から、利家軍は突如として攻撃を仕掛けました。意表を突かれた佐々軍は大混乱に陥り、前田軍の猛攻によって壊滅状態となりました。この激戦の結果、両軍合わせて750人余りという多くの犠牲者が出たと言われています。

戦いの後と影響

末森城の戦いに敗れた佐々成政は、越中国へ向けて退却しました。その途中、無人となっていた鳥越城（石川県河北郡津幡町）を占領し、以降は積極的に攻めることなく、守備を固めて守勢に転じました。一方、前田利家はこの勝利によって自身の領国を防衛することに成功し、小牧・長久手の戦いで政治的な優位を確立しつつあった羽柴秀吉と連携を強め、今度は佐々成政に対する攻勢を強めていくことになります。この流れは、後の「富山の役」へと繋がっていくことになります。

末森城の戦いは、兵力差を覆した籠城軍の粘りと、前田利家の迅速かつ奇襲的な救援が勝利をもたらした戦いとして、後世に語り継がれています。

創作における末森城の戦い

この戦いは、様々な創作作品でも描かれています。司馬遼太郎の小説『俺は権現』や、原哲夫の漫画『花の慶次』などにそのエピソードが登場し、人々に知られています。

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