高力清長

高力清長：誠実と慈愛の武将

高力清長は、戦国時代末期から江戸時代初期にかけて活躍した、徳川家康に仕えた武将です。三河国高力城を拠点とし、後に武蔵国岩槻藩の藩主となりました。従五位下・河内守に叙任され、島原藩高力家の祖でもあります。

激動の生い立ちと家康への仕官

1530年、松平氏の家臣・高力安長の息子として誕生した清長は、幼少期から数々の激動を経験します。6歳の時、松平清康が暗殺され、尾張の織田信秀が三河に侵攻。この戦で父と祖父が戦死するという悲劇に見舞われました。叔父に育てられ、その後、松平広忠、そしてその子である徳川家康に仕えることになります。

家康の人質時代には駿河国に同行するなど、主君への忠誠を貫き、今川義元との戦いにも参加。義元の戦死後、家康が独立を果たすと、清洲同盟締結など重要な局面に立ち会いました。

西三河平定と一向一揆鎮圧

西三河平定や三河一向一揆鎮圧においては、その手腕を発揮しました。特に一向一揆鎮圧後には、仏像や経典の保護に尽力し、寺社を元の状態に修復したことから、「仏高力」と称えられるほど、民衆から慕われました。その功績から、岡崎奉行に任命され、後に本多重次、天野康景と共に三河三奉行の一人となりました。

戦場での活躍と豊臣秀吉からの信頼

遠州平定戦では、巧みな交渉術で敵方の武将を徳川方に寝返らせるなど、知略にも長けていました。姉川の戦い、三方ヶ原の戦いなど数々の合戦に参加し、武功を挙げながらも、三方ヶ原の戦いでは負傷し、一族郎党数十名を失うという苦難も経験しました。

本能寺の変後、家康の伊賀越えに随行し、小荷駄奉行として活躍しますが、この際、賊の襲撃を受け鉄砲傷を負います。その後、駿河田中城を与えられ、豊臣秀吉との小牧・長久手の戦いにも参加。秀吉への使者となった際、秀吉の目に留まり、豊臣姓を賜り、従五位下河内守に叙任されました。聚楽第の普請奉行も務め、秀吉からの信頼は厚いものでした。

小田原征伐と晩年

小田原征伐では、家康の使者として北条氏と交渉し、戦後、武蔵岩槻に2万石の領地を与えられます。朝鮮の役では肥前名護屋城で軍船建造に携わりました。

嫡男の早世後、関ヶ原の戦いの後は隠居し、家督を嫡孫に譲りました。没年は諸説ありますが、79歳で生涯を閉じました。

人となり

清長は温厚で慈愛深く、正直者として知られていました。岩槻の領地を与えられた際、預け地1万石の年貢を私腹を肥やすことなく、そのまま江戸に送った逸話や、軍船建造の余剰金を家康に返上しようとした逸話は、その人となりをよく表しています。秀吉からも寵愛され、その饗応ぶりは秀吉を感心させたと伝えられています。

高力清長は、武将としてだけでなく、その誠実さと慈愛深さから民衆から慕われた、稀有な存在であったと言えるでしょう。彼の生涯は、戦国の世を生き抜いた一人の武将の生き様だけでなく、当時の人々の生き方や価値観を考える上で貴重な資料となります。

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