本草和名

本草和名（ほんぞうわみょう）

『本草和名』は、平安時代に深根輔仁によって編纂された、日本現存最古の薬物辞典（本草書）です。別名として「輔仁本草（ほにんほんぞう）」とも呼ばれます。

編纂の背景

深根輔仁は醍醐天皇に仕えた侍医であり、権医博士でもありました。本書は延喜18年（918年）に編纂され、中国の『新修本草』を参考に、様々な漢籍医学・薬学書に記述された薬物に対して、日本の名前（倭名）を当てはめ、日本での産出の有無や産地を記録しています。

内容と特徴

当時の学問水準から、薬物の比定に誤りが見られる部分もありますが、平安初期以前の薬物の和名を網羅的に記載している点が重要です。それぞれの薬物の来歴も明らかにされており、中国にも存在しない逸文が多数含まれていることは特筆すべき点です。散逸した医学文献の旧態を知る上、また中国伝統医学の源流を探る上でも、非常に価値の高い資料と言えます。

また、本書は丹波康頼の『医心方』にも引用されており、後世の医学や博物学に大きな影響を与えました。さらに、平安時代前期の国語学史の研究においても、欠かせない資料として位置づけられています。

歴史

『本草和名』は、編纂後長らく所在が不明となっていました。しかし、江戸時代になって、江戸幕府の医家であった多紀元簡が紅葉山文庫から上下2巻全18編の古写本を発見し、再び世に知られるようになりました。多紀元簡が発見した古写本の現在の所在は不明ですが、多紀自身が寛政8年（1796年）に校訂を行い刊行しています。その6年後には民間にも版本が出されました。また、古写本を影写した森立之の蔵本が、台湾の国立故宮博物院に現存しています。

関連文献

* 丸山裕美子・武倩 編著『本草和名－影印・翻刻と研究－』汲古書院、2021年。ISBN 9784762942396

まとめ

『本草和名』は、古代日本の医学・薬学、そして国語学の研究において、かけがえのない資料です。その発見と研究の歴史は、日本の学術文化の奥深さを物語っています。

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