材木売

中世日本の材木商：都市を支えた商人たち

中世（12世紀 - 16世紀）の日本において、材木売（ざいもくうり）は、都市の発展に不可欠な存在でした。彼らは、材木を仕入れて販売する行商人や店舗を指し、材木商人、材木商、材木屋とも呼ばれました。本稿では、彼らの活動と、その背景にある歴史・文化について詳しく解説します。

材木商の起源

材木商の起源は平安時代（9世紀 - 12世紀）に遡ります。879年には、京都の祇園社（現在の八坂神社）の記録に、堀川十二町（現在の堀川今出川から堀川御池の範囲）の「材木商人」に関する記述が見られます。堀川十二町の寄進によって、同地は祇園社の領地となり、「材木商人」たちは同社を本所とした「神人」の地位を得ました。

『京都嵯峨材木史』によれば、堀川に材木商が居を構えたのは、794年の平安京造営の際、輸送された木材が同地で引き上げられたことがきっかけでした。当時の堀川は川幅が広く、貯木場として機能していました。堀川十二町の材木商は「堀川材木神人」と呼ばれ、特別な地位を確立していました。

材木座の成立と流通の独占

鎌倉時代（12世紀 - 14世紀）には、相模国鎌倉郡和賀江津（現在の神奈川県鎌倉市材木座）に「材木座」が設置されました。また、興福寺の一乗院が支配した山城国相楽郡木津（現在の京都府木津川市木津）にも、同時期に材木座が置かれたとされています。

室町時代に入ると、1459年に堀川十二町の堀川材木神人たちが「材木座」を結成し、堀川の貯木場を独占しました。彼らは大鋸挽（おがびき）たちが製材した「大鋸板」（おがいた）の販売権も独占し、丹波国、近江国、美濃国、安芸国、四国などからの木材を堀川の材木座に集約させました。材木座は、京都堀川や木津、鎌倉和賀江津のほか、大和国奈良、和泉国堺にも存在したことが知られています。

『三十二番職人歌合』に描かれた材木売

15世紀末に編纂された『三十二番職人歌合』には、「いやしき身なる者」として「竹売」とともに「材木売」が紹介されています。袴を穿き、板材を束ねる姿が描かれており、小刀を帯刀しているのは、彼らが「神人」の身分であったことを示しています。歌合に載せられた歌は、吉野材の価値を歌い上げています。

流通の変化と材木問屋の登場

中世には、「問丸」（といまる）と呼ばれる商人が現れ、海岸や河川の港で貨物の保管・輸送・販売を行いました。16世紀には「仲買」が現れ、やがて問丸が江戸時代に入り、卸売商人である「問屋」へと発展し、流通システムが大きく変革しました。

江戸における「材木問屋」は、当初は「仲買」と「小売」を兼ねていましたが、のちに分化しました。「材木屋」と呼ばれた小売商店は、製材を行う職人である「大鋸引」（木挽）、ならびに筏師（川並鳶）を配下に抱えていました。江戸・八丁堀で材木商を営み、寛永寺本堂造営への材木提供で財をなした紀伊國屋文左衛門は、その代表的な人物です。

材木商に関わる用語

材木座: 貯木場・板材等の販売権を独占する座
材木奉行: 中世・近世に材木の調達・管理を行った役人・役所
木屋（きや）: 材木小屋、材木の貯蔵用の倉庫
川並鳶・川並: 木場で木材の管理をする者
材木問屋: 近世以降の流通における問屋
木挽・大鋸挽: 製材する者

材木商がもたらした文化

元禄年間（1688年 - 1704年）には、「材木屋風」（ざいもくやふう）という男性の髪型が流行しました。これは、後頭部で髷を細く結ったスタイルで、頭頂部を剃る「中剃り」のある髪型でした。林不忘の小説『釘抜藤吉捕物覚書』の主人公・藤吉も、この髪型をしていました。

材木商は、単に木材を扱うだけでなく、都市の発展、経済、文化にも大きな影響を与えました。彼らの活動は、中世日本の社会を理解する上で欠かせない要素と言えるでしょう。

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