東城丸

東城丸（とうじょうまる）は、太平洋戦争末期に建造された日本の戦時標準船2TL型タンカーです。大連汽船（現NSユナイテッド海運）によって所有・運用されました。戦局が厳しさを増す中、貴重な石油資源の輸送という重要任務を担い、南号作戦において激しい戦禍をくぐり抜け生還を果たしました。しかし、戦争中に受けた損傷が十分に修復されないまま商業航海に就くことなく、その特異な船歴は八戸港の沈船防波堤として終わりを迎えることとなりました。

建造と竣工

東城丸は、太平洋戦争中の船舶不足を補うため、緊急建造された戦時標準船の一つです。2TL型という大型タンカーの設計に基づき、播磨造船所で建造が進められました。驚くべき速さで建造が進められ、起工からわずか89日で進水、艤装工事も40日で完了し、合計129日間という異例の短期間で1945年（昭和20年）1月15日に竣工に至りました。

南号作戦の苦闘

竣工と同時に東城丸は船舶運営会の使用船として徴用され、最重要航路であった南方からの石油輸送、すなわち南号作戦に参加することになります。最初の任務は、南方向けのヒ91船団への参加でした。1945年1月26日、東城丸は門司港を出港し、目的地である昭南（シンガポール）を目指しました。

しかし船団は困難な航海に直面します。出港からわずか2日後の1月28日未明、アメリカ潜水艦「スペードフィッシュ」の攻撃を受け、特設運送船「讃岐丸」と護衛の海防艦「久米」が犠牲となりました。東城丸は同航のタンカー「永洋丸」と共に、敵潜水艦の脅威を避けるため大陸沿岸や島嶼に沿って慎重な南下を続け、2月8日に無事昭南に到着しました。

昭南では、日本本土にとって不可欠な航空ガソリン16,000トンや重油1,285トンなどを満載しました。そして、帰国船団であるヒ92船団に加わり、2月18日午後に昭南を出港、日本への帰路につきました。しかし、この復路もまた平穏ではありませんでした。出港からわずか2時間半後、東城丸は機雷に接触し機関部（気缶）を損傷してしまいます。航行不能にはなりませんでしたが、応急修理を施しながらも、その後の航海を続行せざるを得ませんでした。

船団はさらに犠牲を出します。2月22日には同航のタンカー「第二建川丸」が触雷により沈没。さらに2月25日にはアメリカ潜水艦「ホー」の雷撃により護衛の海防艦「昭南」が失われました。こうした厳しい状況の中、東城丸は船団から分離し、中国大陸の楡林港へ向かい機関の応急整備を行いました。その後、対潜掃討任務を終えた第25号海防艦と共に再び北上を開始しました。大陸沿岸や朝鮮半島沿いを経由する危険な航路をたどり、汕頭、舟山群島、釜山港外などを経て、3月11日、激戦を乗り越え無事門司港に帰還を果たしました。

帰還後、搭載していた貴重な石油を下津港で陸揚げしました。その後、触雷で受けた損傷の本格的な修理のため、建造された播磨造船所へと回航されました。しかし、その修理作業中に日本の敗戦、すなわち終戦を迎えることとなったのです。東城丸は、辛くも戦禍を生き延びたのでした。

戦後の不遇と新たな役割

戦争が終結し、東城丸を所有していた大連汽船は、親会社であった南満州鉄道の解体に伴い、経営が極めて困難となりました。1947年3月8日には、大連汽船の資産を引き継ぐ形で第二会社として東邦海運が設立され、東城丸もGHQの日本商船管理局（SCAJAP）により管理番号SCAJAP-X064を与えられ、東邦海運に移籍しました。

しかし、終戦時に抱えていた損傷は十分な修理がされないまま放置され、商業航海に復帰することは叶いませんでした。そして、東城丸は1947年 9月23日に廃船処分とされてしまいます。波乱の戦時輸送を生き延びたにも関わらず、一度も商船として活躍することなく船歴を終えることになったのです。

廃船となった東城丸でしたが、その船体は新たな形で国の役に立つことになりました。連合国軍最高司令官総司令部による接収や運輸省による購入を経て、戦後復興期における八戸港の港湾整備計画の一環として、沈船防波堤として利用されることが決定したのです。

東城丸は、同じ2TL型で戦後竣工後に運輸省に売却された「富島丸」「大杉丸」と共に、八戸港の沈船防波堤となるべく曳航されることになりました。当初計画では船内に砂を積んで曳航する予定でしたが、富島丸の曳航時に、沈設用に搭載した砂のバランスが崩れ、転覆寸前となるアクシデントが発生しました。この経験から、東城丸の沈設にあたっては、安全を期して船体を空の状態で八戸港まで曳航し、現地で改めて砂を投入して沈める方法が採用されました。

富島丸での予期せぬ出来事により、一連の沈船防波堤設置工事は1948年（昭和23年）春以降に延期されることとなりました。延期を経て、1948年6月15日に東城丸は横浜港を出発し、曳航されて八戸港へ向かいました。悪天候に見舞われる場面もありましたが、6月21日に無事八戸港に到着しました。その後、富島丸と大杉丸の到着を待ち、7月に入ると3隻の沈設工事が順次行われました。

こうして完成した防波堤は「沈船防波堤」として知られ、1967年（昭和42年）に新たな白銀西防波堤に更新されるまで、約20年間にわたり八戸港の波浪から港内を守り、港の発展を支える重要な役割を果たしました。

沈船防波堤としての役目を終え撤去された後、1986年には八戸港白銀埠頭に、東城丸、富島丸、大杉丸という港の発展に貢献した3隻の船を称える記念碑「船の碑」が建立されました。戦時中に急造され、激しい戦いを生き延びながらも商業航海に就けず、最後は港の礎となった東城丸。その数奇な運命は、激動の時代を生きた船たちの物語として、現代に語り継がれています。

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