東宝教育映画

東宝教育映画株式会社について

東宝教育映画株式会社は、かつて存在した日本の映画会社です。この会社は、東宝教育映画部を前身とし、さらに遡ると東宝航空教育資料製作所が母体となっています。特筆すべきは、1960年に『思春の波紋』を製作した新東宝教育映画部とは全く異なる組織であるという点です。

歴史

設立の背景

東宝教育映画株式会社は、東宝争議における労使間の合意に基づいて設立されました。1948年12月、東宝教育映画部の閉鎖に伴い、その事業を引き継ぐ形で誕生しました。

前身組織

東宝教育映画の前身には、特殊映画班、航空教育資料製作所、そして東宝教育映画部があります。これらの組織には、美術家、アニメーター、ドキュメンタリー映画監督など、後に様々な分野で活躍する人材が多数在籍していました。

特殊技術課から航空教育資料製作所へ

1937年、東京撮影所第二制作部に円谷英二を責任者とする特殊技術課が設立されました。1939年には、海軍から払い下げられた砧5丁目に映画科学研究所が設けられ、ここではパイロットの訓練や工場労働者の士気高揚を目的とした映画が制作されました。この時期には、うしおそうじが入社し、線画制作（アニメーションの初期の訳語）に携わりました。

1940年の『海軍爆撃隊』では、ミニチュアを用いた撮影が初めて行われ、同時にPCL時代から動画に取り組んでいた大石郁雄やうしおそうじらが軍の教育訓練用映画向けの動画制作を開始しました。特殊技術課は、この頃から特別映画班と呼ばれるようになります。真珠湾攻撃後には、訓練教育用映画が海軍から高く評価されました。

1944年6月、東宝は東京撮影所内に特別映画班を強化した航空教育資料製作所を設置しました。円谷英二が責任者となり、最盛期には230人ものスタッフが在籍し、動画やミニチュア制作が行われました。敗戦時には約120名のスタッフが在籍していました。

教育映画部の創設

戦後、東宝航空教育資料製作所は人員整理の対象となり始めました。経営陣は、一旦「造形技術映画部」とし、その後、東宝撮影所の森岩雄が中心となり、東宝教育映画部へと再編しました。この時期には、野鳥映画の先駆者である下村兼史が理研科学映画から入社しました。1947年1月には、東宝映画第三撮影所を新東宝に明け渡し、教育映画部は第一撮影所に合体。GHQの占領政策に沿った映画やアニメーション映画、自然観察映画などを製作しました。

教育映画製作の中止と東宝争議

しかし、1947年末に、撮影所長の森岩雄と航空教育資料製作所の責任者であった円谷英二がGHQの指令で公職追放されると、経営者が変わり、状況は一変しました。1948年3月末には、東宝の新社長が教育映画の製作中止を命じ、4月16日には教育映画部関係者全員の解雇が決定。これが、第3次東宝争議の引き金となりました。

東宝教育映画の設立と解散

1948年10月、東宝争議解決の「覚書」により、教育映画関係者の雇用機会を確保するために、別会社が設立されることになりました。これにより、1948年12月1日、東宝教育映画株式会社が設立されました。1949年3月には、東宝が60%出資する子会社「教育映画配給社」を通じて作品の普及が図られました。外部の会社との提携を含め、優れた作品を製作しましたが、1952年5月には業績悪化のため解散。社員は解雇され、機材や作品は日本映画新社に引き継がれました。

芸術家との関わり

美術家との関わり

東宝教育映画の前身組織には、多くの美術スタッフが在籍していました。高山良策は、航空教育資料製作所の時代にミニチュア制作に従事し、山下菊二や難波田龍起らと交流しました。画家の森芳雄もこの時期に入社しています。山下菊二は、1944年から1949年まで、東宝航空教育資料製作所、東宝教育映画部、東宝教育映画で勤務しました。

東宝教育映画部が製作した『ちどり』の書籍版には、森芳雄が挿絵を描いています。後に絵本作家となる斎藤博之も、動画部門で森芳雄と知り合いました。

アニメーターとの関わり

特殊技術課から始まった動画制作は、軍の教材映画向けに行われていました。『水平爆撃理論』などでは動画が使用されました。戦後の東宝教育映画部では、『ムクの木の話』などのアニメーション映画が制作され、うしおそうじらが関わりました。また、『古池繪巻 蛙と狐』や『ちどり』にもアニメーションが用いられました。

日本動画社が制作した『すて猫トラちゃん』も公開され、書籍版では鷺巣富雄（うしおそうじ）が絵を描きました。1948年春には、東宝の動画部門には42名のスタッフがいました。

東宝教育映画株式会社では、『小人と青虫』や『お天気学校』を配給し、戦前に制作された『ポン助の腕くらべ』や『動絵狐狸達引』も再配給されました。

主な作品

特殊映画班時代

『水平爆撃理論』（1940年-1941年）
『海軍爆撃隊』（1940年）

航空教育資料製作所時代

『摺鉢形空戦要領・戰闘隊訓練』（製作年不明）
『かくて神風は吹く』（1944年）
『雷撃隊出動』（1944年）
『海軍航空戦』（1944年）

教育映画部時代

『ちどり』（1946年製作、1947年公開）
『こども議会』（1947年）
『ムクの木の話』（1947年）
『すて猫トラちゃん』（1947年）
『名探偵ヒロシ君』（1947年）
『卵は語る』（1947年）
『ぼくらの教室』（1948年）
『谷間の少女』（1948年）

東宝教育映画時代

『石の中の鳥』（1948年）
『古池繪巻 蛙と狐』（1949年）
『こんこん鳥物語』（1949年）
『水晶山の少年』（1949年）
『鶴と子供たち』（1949年）
『機関車小僧』（1949年）
『消えた仔牛』（1949年）
『朝風に乗って』（1950年）
『ああこの一球』（1950年）
『桜島』（1950年）
『流れ作業』（1950年）
『小人と青虫』（1950年）
『生活協同組合』（1950年）
『りんご園物語』（1950年）
『雀の生活』（1951年）
『ポン助の腕くらべ』（1951年）
『小売店の仕事』（1951年）
『資源に挑む』（1951年）
『或日の沼池』（1951年）
『お天気学校』（1952年）

東宝教育映画は、短期間ながらも、多様なジャンルの作品を製作し、後の映画界に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

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