東海道五十三對

『東海道五十三對』は、江戸時代後期の歌川派を代表する浮世絵師、歌川国芳、歌川広重、三代歌川豊国の三人が共同で制作した、竪絵大判錦絵の揃物です。天保15年（1844年）から弘化4年（1847年）にかけて制作されました。

概要

この作品は、広重が発表した『保永堂版東海道五十三次』の大ヒットを背景に、五十三次の宿場を題材とした見立絵が流行した潮流の中で生まれました。国貞（後の三代豊国）の『美人東海道』や、渓斎英泉の『見立吉原五十三つゐ』など、先行する作品の影響を受けながら、独自の構成と表現を追求しています。

この揃物は、伊場屋仙三郎（伊場仙）を中心に、6軒の版元が共同で出版しました。伊場仙が最多の16図を、次いで伊場屋久兵衛（伊場久）、遠州屋又兵衛（遠又）がそれぞれ11図、伊勢屋市兵衛（伊勢市）が8図、小嶋屋重兵衛（小嶋）が7図、海老屋林之助（海老林）が6図を担当しました。これらの版元は、元々団扇絵を制作していましたが、天保の改革による地本屋仲間の解体を受けて、錦絵の出版にも乗り出しました。絵師には、当時人気を博していた国芳、広重、三代豊国が起用されました。国芳は武者絵、広重は風景画、豊国は役者絵でそれぞれ名を馳せており、その三者の共作という点でも注目されました。

『東海道五十三對』は、東海道の宿場53箇所に、起点の日本橋と終点の京を加えた全55枚を基本とし、広重による異版5枚を含めると全60枚となります。作品の内訳は、国芳が30図、広重が22図（国芳との合作である「大津」を除く）、豊国が8図となっています。各作品には、村田半右衛門の名主単印が押されており、これにより、天保15年（1844年）から弘化4年（1847年）の間に刊行されたことがわかります。

構成と特徴

本作は、各宿場に関連する故事、伝奇、歌舞伎の演目などを基にした詞書と、それに対応する人物画を組み合わせた点が特徴です。従来の美人画や役者絵を中心とした見立絵とは一線を画し、より物語性や文化的な背景を重視した構成となっています。また、画面上部に表題と詞書を配し、下部に正方形の絵を配するという、版元ごとの様式も確立されています。特に詞書は『東海道名所図会』を参考にしているものが多く、名所図会としての役割も兼ね備えていました。

模倣作と評価

本作の人気を受けて、大坂の絵師である五粽亭広貞によって同名の中判錦絵が制作されたほか、広貞と歌川貞芳による『東海道五拾三次』も出版されました。これらの模倣作からも、本作が当時大きな注目を集めていたことがわかります。

浮世絵研究者の間では、評価が分かれています。吉田暎二は、「すぐれたものでもなければ珍しいものでもない」と批判的な評価を下していますが、赤間亮は、多くの公共機関で55枚揃の画帖として保管されていることや、模倣作の存在から、本作が当時「非常にインパクトのある企画であり、大きな成功を収めた揃物であった」と評価しています。

赤間は、天保の改革以降にシリーズものが流行する傾向をいち早くとらえた作品として再評価を求めています。

作品一覧

作品一覧については、詳細な情報が多数あるため、ここでは割愛させていただきます。

『東海道五十三對』は、単なる風景画や人物画の組み合わせではなく、当時の文化や物語を背景とした、見応えのある作品群です。その美術的な価値と、江戸時代後期の浮世絵文化を語る上で重要な作品の一つとして、今後も研究が進むことが期待されます。

もう一度検索