東皐心越

東皐心越（とうこう しんえつ）

東皐心越（1639年 - 1696年）は、江戸時代初期に明（中国）から日本へ渡来した禅僧です。彼は詩文、書画、篆刻といった中国の文人文化を日本に伝え、日本の文化に大きな影響を与えました。

生涯

心越は俗姓を蒋氏といい、兆隠と名乗っていましたが、後に興儔と改名しました。心越は字（あざな）、東皐は号であり、他に樵雲・越道人といった別号も持っていました。

彼は明国（現在の中国浙江省）浦江県で生まれ、幼い頃から仏門に入りました。呉門の報恩寺で寿昌無明の法を継ぎました。

1676年、清の圧政を逃れるため、杭州の西湖にあった永福寺から日本へ亡命し、薩摩に上陸しました。その後、澄一禅師の招きにより、1681年に長崎の興福寺に住むことになりました。黄檗山萬福寺の木庵を訪ねるなど各地を遊歴しましたが、外国人であったため清の密偵と疑われ、長崎に幽閉されるという苦難も経験しました。

1683年、水戸藩の徳川光圀の尽力によって釈放され、水戸に移り住み、天徳寺に住みながら篆刻や古琴を日本に伝えました。

1694年に病に倒れ、江戸の菊坂長泉寺や相州塔之沢温泉などで療養に努めましたが、回復することなく天徳寺に戻り、1696年9月に58歳で亡くなりました。

1712年、天徳寺が河和田村に移転する際、その跡地に寿昌山祇園寺が建立され、心越を開基とし寺領100石を受けました。祇園寺には、儒学者である人見竹洞などとの書簡が残されています。

心越の禅風は、明代中国禅の特徴である念仏兼修であり、黄檗僧との交流も深かったため、彼を黄檗宗とする資料も多く見られますが、法系上は曹洞宗に属しています。ただし、日本の曹洞宗の開祖である道元とは別系統であり、心越の法孫は曹洞宗寿昌派を称しました。寿昌派は祇園寺を本山として法脈を伝えましたが、明治維新後に道元系の曹洞宗に合同しました。

心越の没後間もない1697年、酒井忠挙によって達磨寺（群馬県高崎市）の開山とされましたが、実際には心越の弟子の天湫法澧が水戸から招かれたものです。

業績

心越は、日本の琴楽中興の祖、また独立性易とともに日本篆刻の祖とされています。著書に琴の楽譜集である『東皐琴譜』があります。

弟子

篆刻の弟子としては、榊原篁洲や松浦静軒らがおり、彼らは初期江戸派を形成しました。

エピソード

心越が明の永福寺にいた頃、ある日、老いた漁師が訪れ、「昨日西湖で網を打ったが魚は一匹も獲れず、ただこの印のみを得た。必要ないので和尚に進ぜよう」と言いました。それは関将軍が用いた古銅印でした。心越はこれを吉祥と喜び、終生その印を身につけていました。この印は現在も祇園寺に伝えられています。

登場作品

水戸黄門第29部 第6話「危機一髪!影武者大作戦・高崎」（2001年） - 山田吾一が東皐心越禅師を演じました。

参考文献

杉村英治『望郷の詩僧 東皐心越』三樹書房、1989年。
中田勇次郎『日本の篆刻』二玄社、1966年。

関連項目

篆刻
* 日本の[[篆刻史]]

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