東禅寺事件

東禅寺事件

東禅寺事件は、幕末の文久年間に江戸の東禅寺（現在の東京都港区）に置かれていたイギリス公使館が、攘夷派の浪士によって襲撃された事件です。1861年と1862年の2回にわたり発生し、幕末の攘夷運動を象徴する出来事として知られています。

第一次東禅寺事件

第一次東禅寺事件は、文久元年（1861年）5月28日に発生しました。水戸藩を脱藩した攘夷派浪士14名が、イギリス公使ラザフォード・オールコックらを襲撃したのです。

事件の背景

文久元年5月、オールコックは長崎から江戸へ向かう際、幕府から警備上の理由で海路での移動を勧められました。しかし、オールコックは条約で定められた国内旅行権を主張し、陸路での移動を強行。5月27日には、イギリス公使館が置かれていた高輪東禅寺に入りました。尊攘派の志士たちは、この行動に対し「夷狄である外国人が神聖な日本を穢した」と激しく憤慨しました。

襲撃の実行

水戸藩脱藩浪士・有賀半弥ら14名は、5月24日に常陸国玉造湊を出航し、東禅寺門前の浜に上陸。品川宿の妓楼「虎屋」で決別の盃を交わした後、5月28日午後10時頃、東禅寺のイギリス公使館内に侵入し、オールコック公使らを襲撃しました。公使館の警備にあたっていた旗本や郡山藩士、西尾藩士らが応戦し、激しい戦闘が繰り広げられました。この戦闘で、警備兵2名と浪士側3名が死亡。オールコックは辛くも難を逃れましたが、書記官ローレンス・オリファントと長崎駐在領事ジョージ・モリソンが負傷しました。

事件の顛末

攘夷派浪士は公使らの殺害に失敗し逃走。有賀半弥、小堀寅吉、古川主馬之介の3名がその場で討ち取られ、榊鉞三郎が捕縛されました。逃走した浪士たちも次々と捕らえられ、切腹や処刑されました。浪士らが所持していた趣意書には、「尊攘の大義のため」に襲撃を実行した旨が記されていました。

事件後、オールコックは江戸幕府に対し厳重に抗議。イギリス水兵の公使館駐屯の承認、日本側警備兵の増強、賠償金1万ドルの支払いという条件で事件は一応の解決を見ました。しかし、この事件をきっかけに、攘夷運動はさらに激化していくことになります。

第二次東禅寺事件

第二次東禅寺事件は、文久2年（1862年）5月29日に発生しました。東禅寺警備の松本藩士・伊藤軍兵衛が、イギリス兵2人を斬殺したのです。

事件の背景

第一次東禅寺事件の後、オールコックは幕府による警護に不信感を抱き、公使館を横浜に移しました。しかし、オールコックが帰国中に代理公使となったジョン・ニールは、再び東禅寺に公使館を戻し、大垣藩、岸和田藩、松本藩が警護にあたることになりました。松本藩士・伊藤軍兵衛は、東禅寺警備によって自藩が多大な出費を強いられていることや、外国人のために日本人が殺し合う事態を憂慮し、公使を殺害して自藩の東禅寺警備の任を解こうと考えました。

襲撃の実行

伊藤は夜中にニールの寝室に侵入しようとしましたが、警備のイギリス兵2人に発見され戦闘に。2人を斬殺したものの、自身も負傷し、番小屋に逃れて自刃しました。

事件の顛末

幕府は警備責任者を処罰し、松本藩主・松平光則に差控を命じました。また、イギリスとの間で賠償金の支払い交渉を行いましたが、まとまらず、紛糾するうちに生麦事件が発生しました。幕府は翌文久3年4月、生麦事件の賠償金とともに1万ポンドを支払うことで、事件は解決しました。

東禅寺事件は、幕末の攘夷運動が激化する中で起きた事件であり、日本の開国と近代化に大きな影響を与えました。この事件をきっかけに、攘夷運動はさらに激化し、幕府の権威は失墜。明治維新へと繋がっていくことになります。

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