松代騒動

松代騒動：明治初期の農民一揆

松代騒動は、明治3年（1870年）に信濃松代藩で発生した大規模な農民一揆です。この騒動は、藩の財政政策の失敗が引き金となり、領民たちの不満が爆発したものです。

背景：藩財政の逼迫と手形の発行

幕末期の松代藩は、年貢収入の伸び悩みに直面していました。そこで、藩は商品経済や流通に着目し、財政の安定化を図るため、産物会所を設立しました。しかし、戊辰戦争による戦費がかさみ、藩の財政赤字は深刻化しました。

明治2年（1869年）、藩は産物会所を改組し、松代商法社を設立しました。そして、御用商人であった大黒屋大谷幸蔵を頭取に据え、藩は財政再建を目指しました。ところが、当時、贋二分金が流通し、経済が混乱していたため、藩は回収を目的として済急手形を発行しました。さらに、翌明治3年（1870年）には商法社が大量の手形を発行し、領内の生糸や蚕種などを独占的に買い占め、海外への輸出を目論みました。しかし、輸出相場の暴落により準備金が不足し、商法社が発行した手形は暴落しました。その結果、手形の価値は正貨である太政官札を大幅に下回るまでに下落しました。

明治維新政府は、年末までに藩札を回収するよう厳命しましたが、既に流通高は38万両にも達しており、回収は困難を極めました。そこで、藩は3年分の石代金を藩札で上納させることとし、金10両に対して籾4俵半の相場と、藩札の太政官札に対する2割5分引きを領内に告知しました。この措置は、手形を保有していた庶民の生活をさらに困窮させ、松代騒動の勃発へとつながりました。

一揆の勃発と拡大

明治3年11月25日（新暦1871年1月15日）、更級郡山田村の名主の弟であった小平甚右衛門は、周辺の農民たちに松代城下への強訴を呼びかけました。一揆勢は千曲川畔に集結し、大黒屋宅を焼き払いました。翌26日（新暦1月16日）には、約3000人もの人々が城下に突入しました。

事態を重く見た知藩事の真田幸民は、石代相場を引き下げ、藩札の額面通用と太政官札との等価兌換を約束しました。一揆勢は一旦帰村しましたが、一揆は領内全域に拡大し、酒屋、米穀商、質屋などが打ちこわしに遭いました。26日夜には、一揆勢は再び城下に突入し、藩の要人の邸宅がことごとく焼き討ちされました。隣接する善光寺領でも、贋金を流通させた商人が打ちこわされました。

一揆の鎮圧とその後

翌27日（新暦1月17日）、藩は武装した藩兵を派遣し、一揆を鎮圧しました。28日（新暦1月18日）には、藩は直ちに実務者を更迭し、河原均大参事と山寺常山権大参事を中心に藩政を立て直しました。そして、領内を巡回させ、知藩事の諭達を伝えるとともに、財政の逼迫を領民に説得しました。また、嘆願事項を書面で提出させました。

12月に入り、明治維新政府は弾正台や民部省の官吏を派遣し、一揆の参加者の探索を進め、事件の収束に当たりました。翌明治4年（1871年）4月には、真田桜山、高野広馬が閉門処分となり、真田幸民は謹慎となりました。松代商法社は解散させられ、5月には620名余りが検挙され、400名余りが入牢しました。小平甚右衛門らは斬罪に処されたほか、多数の参加者が処罰されました。

松代騒動の意義

松代騒動は、明治初期における農民の不満が爆発した事件として、その後の農民運動に大きな影響を与えました。また、藩の財政政策の失敗が、民衆の生活をいかに困窮させるかを明確に示す事例として、歴史に刻まれました。

参考文献
『長野県史 通史編 第7巻 近代1』
小松芳郎監修『幕末の信州』 郷土出版社、2008年
上條宏之編『街道を駆けた信州明治維新』 柏企画、2011年

関連項目
中野騒動
上田騒動
世直し一揆

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