松前徳広

松前徳広：激動の幕末を生きた松前藩主

松前徳広（まつまえ のりひろ）は、江戸時代後期、蝦夷地松前藩の第13代藩主です。従五位下志摩守の官位を持ち、後に贈従四位を追贈されました。

生涯

天保15年（1844年）に第11代藩主・松前昌広の長男として福山城で生まれました。嘉永2年（1849年）に父が隠居したものの、幼少のため叔父の崇広が藩主となりました。嘉永6年（1853年）に世子となり、安政5年（1858年）に従五位下志摩守に叙任されました。

慶応2年（1866年）に崇広が死去したため、その養子として家督を継ぎました。文人肌で尊王思想の持ち主でしたが、肺結核や痔疾、精神病を患っていたため、政務を執ることは困難でした。当時の松前藩では、若年の藩主が続くことが多く、重臣に統治を任せるのが常態化しており、一部重臣の専横に対する不満が鬱積していました。また、新政府と奥羽越列藩同盟の両方に使者を立てる日和見的な政策が、藩内の両派閥の不満を招いていました。

同年11月、徳広が藩主を退く意向を示したため、筆頭家老の松前勘解由らは崇広の次男・敦千代（松前隆広）を後継に擁立しようとしました。しかし、勘解由の執政に批判的な勢力が反発し、勘解由は家老を解任され蟄居処分となりました。しかし、勘解由なしでは藩政が立ち行かず、慶応4年（1868年）4月に家老に復帰しました。

慶応4年（1868年）7月、鈴木織太郎や下国東七郎ら尊皇派の家臣団40名余りが蜂起し、「正義隊」を名乗って徳広に佐幕派の一掃と勤王への転向を求める建白書を提出しました。病弱な徳広がこれを受け入れたため、家老の松前勘解由は登城を試みるも果たせず、藩士と共に武器を手に法華寺から松前城への砲撃を企てましたが、説得により断念しました。7月29日に勘解由は家老を罷免され、勢いを得た正義隊は8月1日に佐幕派重臣を襲撃しました。勘解由も屋敷を襲撃され、8月2日に自宅禁固、8月3日に切腹しました。正義隊は合議局・正議局・軍謀局などを創設し、人材の登用を行いましたが、藩内は混乱を極めました。

箱館戦争

同年10月、榎本武揚率いる旧幕府軍が北海道に上陸し、五稜郭を拠点に松前へ侵攻しました。松前藩は館村新城（館城）に藩主と主力部隊を移動させました。11月1日には榎本軍の軍艦蟠竜が松前を砲撃し、松前藩は奇襲を試みるも失敗。11月5日には土方歳三を総督とする部隊が松前城を攻撃し、城代家老の蛎崎民部らが籠城するも、数時間で開城しました。残存兵は城に火を放ち、江差方面へ退却しました。

一方、榎本軍の別働隊が徳広らの逃れた館城を攻撃しました。徳広らはすでに西在熊石村へ避難しており、城にはわずかな兵しか残っていませんでした。11月15日、激しい銃撃戦の末に城は落城しました。箱館戦争終結後、松前藩は館城にちなんで「館藩」と名乗りました。

11月22日、榎本軍が熊石村に到着しましたが、徳広らはすでに弘前藩へ逃れていました。残りの藩士300名は榎本軍に投降しました。

江差に逃れた松前藩軍を追撃するため、榎本軍の主力艦開陽が派遣されましたが、江差はすでに榎本海軍に占拠されていました。額兵隊が陸から江差に攻め込んだ際、開陽は座礁し、救援に駆け付けた回天と神速丸も座礁、放棄されました。開陽の沈没は榎本軍の海上戦力を大きく低下させ、新政府軍の上陸を容易にしました。

11月19日に出港した徳広らは、津軽藩領の平館村に漂着し、津軽藩士の保護を受けました。航海中に娘が船酔いで亡くなったと伝えられています。11月24日には弘前城下の薬王院を仮住居として与えられましたが、喀血して倒れ、11月29日に死去しました。享年25。

明治3年（1870年）10月9日、遺骸は菩提寺である松前の法憧寺に改葬されました。明治29年（1896年）には贈従四位が追贈されました。平成24年（2012年）には、長勝寺から徳広の墓所跡が発見され、櫛やはさみなどの日常品が出土しました。

松前徳広は、激動の幕末に翻弄されながらも、藩主として苦難の道を歩んだ人物でした。

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