松前矢越道立自然公園

松前矢越道立自然公園

松前矢越道立自然公園は、北海道南部の渡島半島に広がる道立自然公園です。日本海から津軽海峡にかけての広大な海域に加え、渡島半島南端部の変化に富んだ海岸線、そして内陸部の緑豊かな森林地帯をその区域に含んでいます。

公園の概要と区域

公園の範囲は多岐にわたり、主に三つの異なる様相を持つ地域から構成されています。

第一に、松前町の西方沖合に位置する離島、渡島大島（おしまおおしま）と渡島小島（おしまこじま）を含む島嶼（とうしょ）地域です。これらの島々はそれぞれ国の天然記念物や北海道の鳥獣保護区に指定されており、学術的にも非常に価値の高い地域となっています。

第二に、松前町から福島町を経て知内町（しりうちちょう）にかけての海岸地域です。ここでは、荒々しい海食崖や美しい海浜が断続的に続いており、変化に富んだ景観を作り出しています。この海岸線の一部も鳥獣保護区に指定されています。

第三に、知内町の内陸部にある知内温泉（しりうちおんせん）周辺の地域です。ここでは、森林が織りなす景観が主体となっており、海岸部とは異なる落ち着いた自然が広がっています。

豊かな自然環境

この公園は、多様な生態系を育む貴重な場所です。

島嶼部である渡島大島と渡島小島では、標高が比較的低いにもかかわらず、予想外に多くの高山植物を見ることができます。温帯性の植物、海岸に特有の植物、岩場に生える植物などが複雑に入り混じり、大変ユニークな植生を形成しています。一方で、外来種であるアメリカオニアザミやオニノゲシといった移入植物の分布も確認されています。

鳥類にとっては、この公園の島々や海岸は重要な生息・繁殖地となっています。渡島大島は、渡り鳥が休息する中継地としての役割を果たすとともに、オオミズナギドリの繁殖地としては日本で最も北に位置する場所です。渡島小島は、ウトウをはじめとする海鳥の繁殖地であり、ウミガラスやケイマフリの繁殖地としてはここが南限となっています。また、希少なカラフトルリシジミの生息も確認されています。

北海道本土側の海岸地域、特に白神岬（しらかみみさき）周辺や福島町の岩部（いわべ）地区の森林エリアは、北海道の鳥獣保護区に指定されており、ここも多くの渡り鳥が通過する際の重要な要衝地となっています。知内温泉周辺の内陸部では、知内川の渓流沿いにブナやナラの天然林が広がり、四季折々の美しい森の姿を見せてくれます。

陸上の大型哺乳類については、北海道本土側の公園区域内ではその数は多くありませんが、エゾシカやヒグマが生息していることも確認されています。

また、津軽海峡は現在も海生哺乳類が回遊する重要なルートとして機能しており、公園内の海域でも様々な海の動物が確認されています。特にカマイルカの目撃例が多く、矢越岬（やごしみさき）の周辺では遊覧船からのウォッチングを楽しむことができます。他にも、ツチクジラやトドなどの海生哺乳類が確認されており、豊かな海の生態系が見られます。なお、かつては絶滅したとされるニホンアシカも、この津軽海峡周辺に生息していたと考えられています。

景勝地

公園内には、美しい景観を楽しめる場所が点在しています。白神岬の雄大な景色、神秘的な青の洞窟、夏には賑わう折戸浜（おりとはま）海水浴場、そしてイカリカイ駐車場公園などが挙げられます。

松前矢越道立自然公園は、海と陸、島と内陸が織りなす多様な自然環境と、そこに息づく多くの生命、そして風光明媚な景観が一体となった、北海道南部の貴重な自然遺産と言えるでしょう。

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