松平伊忠

松平伊忠：戦国を駆け抜けた勇将

松平伊忠（まつだいら これただ）は、戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した武将であり、深溝松平家の3代目当主です。三河国額田郡深溝城（現在の愛知県額田郡幸田町深溝）を本拠地としました。父は深溝松平家2代当主の松平好景。

若き日の苦難と家督相続

永禄4年（1561年）、伊忠は中島城（現在の愛知県岡崎市中島町）を任されますが、同年の4月15日、東条城の吉良義昭の攻撃を受け、上野上村城（現在の豊田市上郷町）を守っていた酒井忠尚の救援に向かいました。その隙をついて吉良勢は中島城を襲撃。知らせを受けた父・好景は深溝城から救援に駆けつけますが、善明堤の戦いで討ち死にしてしまいます。これにより、伊忠は急遽、深溝松平家の家督を継ぐこととなりました。

三河一向一揆と武田軍との戦い

永禄6年（1563年）、武田信玄の軍勢が長沢城に攻め寄せてきますが、小競り合い程度で終わり、伊忠はこれを撃退しました。同年、三河一向一揆が勃発すると、伊忠は一揆勢として野羽城（または六栗城）に籠った大津半右衛門、乙部八兵衛、夏目吉信らを攻略。乙部八兵衛を内応させ、夏目吉信を生け捕りにすることに成功します。その後、伊忠の嘆願により夏目吉信は帰参を許されました。

徳川家康初期の功臣として

その後も伊忠は、永禄8年（1565年）の吉田城攻略戦、永禄12年（1569年）の掛川城攻城戦、元亀元年（1570年）の姉川の戦い、元亀3年（1572年）の三方ヶ原の戦いなど、主要な合戦に参戦し、徳川家康初期の功臣として目覚ましい武功を挙げました。

長篠の戦いでの壮絶な最期

天正3年（1575年）5月、長篠の戦いにも参戦した伊忠は、5月20日の夜、織田信長の命を受けた酒井忠次率いる別働隊の一翼を担い、鳶ヶ巣山の攻略に向かいます。翌21日早朝、伊忠は敵将である武田信玄の弟、武田信実を討ち取るという大功を挙げます。しかし、その後の残敵追撃戦で前線に出過ぎたため、退却する武田軍の小山田昌行率いる500騎の猛反撃を受け、壮絶な討ち死にを遂げました。享年39。

死後の評価と系譜

伊忠の墓所は深溝松平家の菩提寺である瑞雲山本光寺にあり、法名は「慈光院殿悟渓源了大居士」です。伊忠が討ち死にしたとされる地（愛知県新城市有海）には、松平伊忠戦死之地の石碑が建てられています。長篠の戦いにおける織田・徳川連合軍側で唯一と言える有力武将の戦死であり、その死は大きく惜しまれました。

伊忠の系譜は以下の通りです。

父：松平好景
母：松平清定娘
妻：鵜殿長持次女（泰印大姉）
長男：松平家忠
次男：松平忠勝
三男：松平伊長
四男：松平玄成
五男：松意
女子：ちいは（松平甚太郎家忠室、後跡部昌勝室）
女子：おさち（鵜殿康孝室、のち松平家清後室）
女子：萬松院（戸田尊次室）
女子：おいち（松平元勝室）

松平伊忠は、その勇猛果敢な戦いぶりと、家康初期の功臣としての活躍にもかかわらず、長篠の戦いで若くして命を落としましたが、その武功と名は、後世に語り継がれています。

参考文献

『寛政重修諸家譜.第1輯』巻第29　國民圖書（1922年出版）　148-150頁
『家康と松平一族』　安城市歴史博物館編集（2021年発行）　P.38～42深溝家

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