松平家忠

松平家忠とその日記『家忠日記』

松平家忠（まつだいら いえただ）は、戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した武将であり、徳川氏の家臣でした。深溝松平家の4代目当主として、その名を知られています。

生涯

弘治元年（1555年）、深溝松平家3代当主・松平伊忠の長男として、三河国深溝城で生まれました。元服の頃、深溝松平家は徳川家康に服属しており、家康の家臣である酒井忠次の指揮下に入っていました。天正3年（1575年）の長篠の戦いでは父と共に従軍し、父の戦死後、21歳で家督を継ぎました。また、時期は不明ながら水野信元の妹を妻に迎えています。

家忠は各地の合戦に従軍する傍ら、浜松城や牧野城などの城郭の普請や補修に携わりました。これは、領内の広田川の氾濫復旧を行った経験から培われた土木技術によるものと考えられています。天正18年（1590年）に家康が関東に移封されると、武蔵国埼玉郡に1万石を与えられ、忍城を本拠としました。その後、下総国小見川に移封され、上代城を拠点としました。

慶長5年（1600年）、関ヶ原の戦いの前哨戦である伏見城の戦いで、鳥居元忠らと共に伏見城を守備し、西軍の攻撃を受け戦死しました。享年46。

家忠日記

家忠は『家忠日記』（いえただにっき）の著者としても知られています。この日記は、天正3年（1575年）から文禄3年（1594年）までの17年間、日々の出来事を記録したものです。日記は、嫡孫である松平忠房によって修補され、現存しています。

内容は、天候や季節の移り変わりから、戦などの政治情勢、外交に関する記述まで多岐にわたります。個人的な感想はほとんど書かれていませんが、能を鑑賞したり、連歌や茶の湯を楽しんだりしたことが記されており、家忠の文化人としての側面も垣間見ることができます。ただし、徳川家康の妻子に関する記述は、信康追放以降は見られません。

『家忠日記』は、織田政権から豊臣政権へと移り変わる当時の情勢下で、東国に勢力を築いた家康の動向を知る上で貴重な資料です。甲斐武田氏や相模後北条氏など、徳川氏と敵対・外交関係にあった大名家の動向も知ることができます。また、織田信長の家臣であった黒人、弥助について記述した箇所は、弥助が黒人であったことの裏付けとなり、彼の身長を知る手がかりにもなっています。日記には皆既月食の記録もあり、家康も月食を観測した可能性が指摘されています。

また、将棋の現存する最古の局面図が日記に登場していることも特筆されます。家忠自身が将棋を指したかどうかは不明ですが、当時の将棋のレベルを知る上で貴重な情報源となっています。

東京大学の岩沢愿彦は、原本と明治時代に出版された書籍の内容には相違があると指摘しています。

このように、『家忠日記』は、戦国時代から安土桃山時代にかけての政治、文化、社会情勢を知る上で欠かせない史料となっています。

参考文献

盛本昌広『松平家忠日記』角川選書、1999年。ISBN 4-04-703304-9。 
増補版『家康家臣の戦と日常　松平家忠日記をよむ』角川ソフィア文庫、2022年
* 家忠日記研究グループ「『家忠日記』人名索引」『駒澤史学』第54号、1999年、1-62頁、NAID 110007002392。 

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