松平信平

松平信平：公家から旗本へ、異例の転身を遂げた男

松平信平は、江戸時代前期に活躍した旗本であり、鷹司松平家の祖として知られています。彼の出自は五摂家の一つである鷹司家であり、公家社会の最高位に属していました。

生涯

寛永13年（1637年）に、元関白である鷹司信房の四男として生まれました。父の信房は二條家出身で、鷹司家を再興した人物です。信平が生まれた時、信房は既に70歳を超えており、信平より27歳年上の甥が右大臣を務めていました。公家社会において高い家格を誇る鷹司家でしたが、庶子であった信平には、門跡寺院に入るか、他の公家の養子になるという選択肢しかありませんでした。

しかし、信平はこれらの道を選ばず、15歳になった慶安3年（1650年）に、姉であり第3代将軍徳川家光の正室であった鷹司孝子を頼って江戸へ下りました。当時、孝子は34歳でした。家光は信平を歓迎し、1000俵の廩米と月俸200人扶持を与え、寄合入りを許しました。

承応2年（1653年）、第4代将軍徳川家綱の配慮により、家光の叔父である紀州藩主徳川頼宣の娘・松姫を娶りました。翌承応3年（1654年）には従四位下・左近衛少将に任じられ、紀州徳川家の縁者として松平の名字を称することを許されました。この年に、従来の俸禄に代わって4000俵の廩米を授けられています。信平が任じられた官位官職は国主並みであり、旗本としては異例の高位でした。

明暦2年（1656年）には、父・信房の見舞いのため上洛しました。信房は明暦3年（1658年）に93歳で亡くなっています。延宝2年（1674年）には、姉・孝子が亡くなり、家綱はこれを憐れみ、信平にそれまでの廩米に代えて、上野国と上総国に合わせて7000石の知行地を与えました。

元禄2年（1689年）7月28日、信平は54歳で亡くなりました。

異例な転身

公家から武家へという異例の転身を遂げた信平の経歴は、後世に様々な憶測を呼びました。「実は信平は徳川将軍家の血筋なのではないか？」という噂も生まれ、松平長七郎伝説の土壌になったとも言われています。

公家から武家への転身例は、信平以前にも存在します。例えば、信平が仕官する前年の慶安2年（1649年）には戸田氏豊が、それ以前には元和9年（1623年）に日野資栄が武士となっています。諸藩においても、加賀藩士で白川伯王家出身の品川雅直などが同様の経歴を持っています。家綱や綱吉の時代にも同様の例が見られることから、信平の転身は決して特殊なことではありませんでした。

しかし、幕臣として取り立てられる例は、高貴な血筋に由来すると考えられる高家旗本としてのものがほとんどでした。一般の旗本として取り立てられ、さらに子孫が大名にまでなった例は稀であり、信平の転身は特筆に値します。

系譜

父：鷹司信房（1565年 - 1658年）
母：白川顕成王の娘
正室：松姫 - 徳川頼宣次女
男子：松平信政（1661年 - 1692年）
生母不明の子女
次男：竹中定矩（1689年 - 1755年） - 竹中重富の婿養子
女子：米姫 - 島津綱貴正室

松平信平を題材としたフィクション

『公家武者 松平信平』
『公家武者 信平』
佐々木裕一による信平を主人公とする時代小説シリーズ

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