松平信順

松平信順（まつだいら のぶより）は、江戸時代後期の武士で、三河吉田藩（現在の愛知県豊橋市）の第4代藩主です。大河内松平家8代目にあたります。寛政5年（1793年）に、先代藩主である松平信明の次男として江戸で生まれました。幼名は不明ですが、寛政9年（1797年）に嫡子となり、信順と名乗るようになりました。

文化2年（1805年）には従五位下・駿河守に叙任され、元服を果たします。文化14年（1817年）に父の死去に伴い家督を相続し、吉田藩主となりました。その後、伊豆守に改められています。藩主就任直後には、藩士に対して文武の奨励や質素倹約を求める「御直書」を発布し、藩政改革への意欲を示しました。

文政元年（1818年）には幕府の役職である奏者番に就任し、文政8年（1825年）には寺社奉行に転じました。天保2年（1831年）には大坂城代、天保5年（1834年）には京都所司代と、要職を歴任しました。京都所司代在任中の天保8年（1837年）には、大塩平八郎の乱が発生しています。信順は、京都の警備を強化するとともに、朝廷への報告や江戸・大坂間の連絡確保に奔走しました。しかし、その直後に江戸に召喚され、老中に就任しましたが、わずか3ヶ月で辞任しました。この短期間での辞任の背景には、同僚の老中である水野忠邦との意見の対立があったとされています。

天保13年（1842年）に隠居し、家督を嫡男の信宝に譲りました。隠居後は刑部大輔と称しました。天保15年（1844年）、小名木川屋敷で52歳で死去しました。

信順は、学問を非常に重んじた人物としても知られています。儒学者である大田錦城を父が招聘した際に儒学を学び、帰国後には錦城を藩校である時習館に招いて講義をさせ、自らも聴講しました。また、国学者の中山美石に国学を学び、後に本居大平の門人にもなっています。和歌にも造詣が深く、本居春庭の歌集である『春庭歌集』を編集したほか、自らも多くの和歌を詠んでいます。

京都所司代在任中には、天保の大飢饉による民衆の困窮を目の当たりにし、京都に救恤小屋を設け、粥などを施し、困窮した人々を救済しました。このような事績から、信順は藩主としてだけでなく、文化人、そして民衆を思いやる人物としても評価されています。

系譜

父母
父：松平信明
母：千枝（側室）、久須美氏、恵覚院
正室、継室
正室：錬姫（牧野忠精の娘）
継室：延姫（加納久周の娘）
子女
長男：松平信宝
次男：松平章次郎
女子：某、徽（松平康寿縁女）、令、綜、貞（松平信璋室、松平信宝の養女）、愛（戸沢正実室、のち松平直巳室）

参考文献
* 『豊橋市史』第2巻・第6巻

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