松平康孝

松平康孝は、戦国時代の武将であり、松平宗家6代当主・松平信忠の子で、松平清康の弟にあたる人物です。通称は十郎三郎で、鵜殿松平家、あるいは三木松平家の初代として考察されています。

生涯

『三河物語』には、松平信忠が「三男十郎三郎殿に見次の郷を譲せ給う」と記されており、『三河国二葉松』には「清康御弟君松平十郎三郎康孝」とあることから、康孝は安祥松平家から分家し、所領を持っていたと考えられます。

『松平記』には、松平広忠の岡崎帰還の際、大久保新八が清康の弟である「十郎三郎」に相談したと記されています。また、『三家考』によれば、康孝は兄・信孝と共に帰還後の広忠を後見したとされています。

天文5年（1536年）2月、織田信秀が8,000余の兵を率いて三河に侵攻した際、『松平記』には「松平十郎三郎」が松平方の大将として登場します。『三家考』には、康孝が兄・信孝と共に800人の兵を率いて「伊田の郷」に布陣して戦ったと明記されています。

康孝の没年については、『朝野旧聞裒藁』が『三河国古墳考』などを引用して天文11年3月18日としている一方、『御九族記』には天文15年（1546年）5月とする異説が記されています。

法名は礼翁善忠（『寛永諸家系図伝』、『寛政譜』）もしくは礼翁禅忠（『御九族記』）。『三河国二葉松』は院号を「宝琳院」とし、「浅井村源空院 在松平十郎三郎康孝墳」と記しています。

系譜

父：松平信忠
母：不詳

『御九族記』によれば、康孝は三男であり、兄弟には以下の人物がいます。

1. 松平清康
2. 松平信孝
3. 吉良持広の室：「瀬戸之大房」
4. 「三州大浜道場」 称名寺・室
5. 松平乗勝（源次郎）の室：松平親乗（和泉守）の母

『三家考』によれば、康孝の子である八郎三郎康定は、初め父の遺領を継ぎましたが早世したため、所領は伯父・信孝に併呑されたとされています。この所領が信孝に渡った経緯は、『三河物語』や『松平記』にも記述があります。

また、三河国佐々木（佐崎）城主で、1538年頃に梅森城（現・愛知県日進市梅森）を築城した松平信次は、広忠の叔父にあたり、信忠の子、清康の兄弟とされていますが、家系図に登場することはなく、その存在について詳細は不明です。

松平康孝は、兄である松平清康の陰に隠れがちですが、安祥松平家の一族として、また戦国武将として、三河の歴史に名を刻んだ人物です。彼の事績を辿ることで、戦国時代の三河の動乱と、松平氏の発展の一端を垣間見ることができるでしょう。

参考文献

『日本思想大系26　三河物語』岩波書店、1974年
『三河文献集成 中世編』所収、「松平記」　国書刊行会、1980年
刈谷市中央図書館所蔵『三家考』請求番号：W4080　※巻末の附記に「享保乙巳（注・1725年）門人 平元成識」とある
新城図書館所蔵『御九族記』請求番号：こ119
『参河志』下巻 所収「三河国二葉松」歴史図書社、1969年
国史大系第38巻『徳川実紀』第1篇　吉川弘文館、1981年
内閣文庫所蔵史籍叢刊 特刊第1『朝野旧聞裒藁』1巻　汲古書院、1982年
『寛永諸家系図伝』1巻　続群書類従完成会、1985年　
* 『新訂寛政重修諸家譜』1巻、2巻　続群書類従完成会、1984年

もう一度検索