森山崩れ

森山崩れ（もりやまくずれ）

森山崩れは、1535年（天文4年）12月5日早朝、三河国（現在の愛知県東部）の岡崎城主であった松平清康が、尾張国（現在の愛知県西部）の守山（現在の名古屋市守山区）で、家臣の阿部正豊によって暗殺された事件を指します。

事件の背景

当時の松平氏は、伊勢氏の被官として勢力を拡大していました。幕府内では、管領の細川氏と前将軍の足利義材を支持する勢力との対立が激化しており、松平氏は足利義澄、足利義晴派として活動していました。一方、今川氏は足利義植、足利義維派として対立していました。

松平清康は、今川氏に対抗するため三河一国を支配しようと積極的な拡大政策を進めていました。しかし、織田氏との関係が悪化し、1535年に尾張の守山城を攻めることになります。この出兵に対して、家臣からは反対の声も上がっていました。また、この戦は、織田信秀と戦いを続けていた織田藤左衛門尉を支援する目的もあったとされています。

事件の発生

1535年12月5日早朝、守山に布陣していた松平清康の本陣で、馬が騒ぎ出すという騒動が起こります。この騒ぎを、父が清康によって殺害されたと誤解した阿部正豊が、清康を暗殺しました。正豊は、その場で討たれ、主君を失った松平軍は岡崎に撤退しました。

事件の動機

事件の背景には、松平家臣団の内部対立があったとされます。清康の家臣である阿部定吉が、織田氏に内通しているという噂があり、家臣団は定吉に疑念を抱いていました。定吉は、万が一のために、息子である正豊に潔白を証明するための誓書を渡していたといいます。しかし、この風説を流したのは、松平信定（清康の叔父）だったという説もあります。

事件後の影響

森山崩れの直後、織田信秀が攻め込み、松平信定が岡崎城に入城し、松平広忠は追放されました。その後、今川氏で内乱が起き、今川義元が台頭します。義元は松平広忠を支援し、広忠は岡崎城に復帰しました。その後、松平氏では、広忠と家臣団の間で権力争いが起こり、再び混乱が続きます。

松平氏が三河を再統一するのは、清康の孫である徳川家康の時代まで待たなければなりませんでした。

事件の謎

森山崩れには、いくつかの不審な点があります。

阿部定吉は、事件後も松平氏に仕え、重用されています。これは、当時の慣習からすると不自然です。
植村氏明は、2代に渡って主君の暗殺事件で、実行犯を討ち取っています。これは、単なる偶然ではない可能性があります。
松平信定が家督を狙ったという説には矛盾があります。

近年では、事件は阿部定吉による謀反だったという説も唱えられています。この説では、松平信定は広忠を保護するために動いていたと解釈します。

阿部定吉（大蔵）謀反説

村岡幹生は、阿部定吉が、息子正豊や他の家臣と共謀して、清康を暗殺したとする説を唱えています。この説によると、定吉は岡崎松平家の家臣との対立から、清康との間に不和が生じていました。事件後、広忠が岡崎を脱出したのも、定吉が広忠を連れて逃げたからだと考えられます。また、定吉が事件後も重用されたのは、今川氏が事件に関与していた可能性も示唆されています。

まとめ

森山崩れは、松平氏の歴史における重要な転換点であり、多くの謎と憶測を呼んでいます。事件の真相は未だ不明な点が多いですが、松平氏の勢力拡大と、戦国時代の複雑な人間関係を読み解く上で、重要な手がかりとなる事件です。

脚注

注釈

出典

参考文献

平野明夫『三河松平一族』新人物往来社、2002年。ISBN 4-404-02961-6
村岡幹生『戦国期三河松平氏の研究』岩田書院、2023年。ISBN 978-4-86602-149-2

関連項目

徳川家康の影武者説
天文の乱
稲村の変
* 花倉の乱

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