松平忠恵

松平忠恵（まつだいら ただしげ）

松平忠恵は、江戸時代中期から後期にかけての上野国小幡藩の第3代藩主です。奥平松平家の一員であり、その生涯は藩政改革と鼠小僧捕獲という二つの側面で語られます。

生涯

天明4年（1784年）8月5日、松平忠房の長男として生まれました。父の早世後、叔父の忠彊が後継ぎとなりますが、忠彊もまた早くに亡くなったため、祖父である忠福の嫡子として迎えられました。寛政11年（1799年）に祖父の死を受けて家督を継ぎ、同年には従五位下・宮内少輔に叙任されました。文化5年（1808年）には奏者番に就任し、幕府の要職も務めました。

藩主としての忠恵は、財政改革に力を注ぎました。緊縮財政政策を導入しましたが、藩の財政状況は改善せず、弘化元年（1844年）には借金が収入の約10倍にまで膨れ上がりました。また、農村の荒廃も深刻化しました。天保9年（1838年）には若年寄に就任し、嘉永元年（1848年）には城主格となりましたが、藩の財政は依然として厳しい状況でした。

安政3年（1856年）、老齢を理由に五男の忠恕に家督を譲り、隠居生活に入りました。文久2年（1862年）2月2日に79歳でその生涯を閉じました。

鼠小僧捕獲

天保3年（1833年）5月4日夜、忠恵は江戸藩邸の中屋敷で盗みに入っていた鼠小僧と遭遇しました。家臣たちの手によって鼠小僧は捕獲され、幕府に引き渡されました。この一件により、鼠小僧は処刑されることとなりました。

この出来事に関連して、興味深い事実があります。文政12年（1830年）の武鑑には小幡藩の江戸藩邸が浜町に存在しないとされていますが、天保4年（1834年）の武鑑では浜町に中屋敷の存在が確認できます。このことから、小幡藩の江戸藩邸が天保年間に永田馬場から浜町へ移転した可能性が示唆されます。

系譜

父：松平忠房
母：政姫（間部詮方の八女あるいは側室）
正室：定姫（蜂須賀重喜の七女）
継室：万千姫（諏訪忠粛の娘）
子女
次男：松平忠孝
五男：松平忠恕
娘：縄姫（内藤信方継室）

参考文献

石井良助『編年江戸武鑑 文政武鑑5』（柏書房、1992年）
橋本博『大武鑑 中巻』（名著刊行会）

松平忠恵は、藩主としての苦悩と、鼠小僧を捕獲したという特異な経験を持つ人物として、歴史に名を残しています。彼の生涯は、江戸時代後期の藩政の厳しさ、そして時代を彩った事件を映し出す鏡と言えるでしょう。

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