松平忠敏

松平忠敏：幕末の旗本、その実像と虚像

松平忠敏（まつだいら ただとし）は、江戸時代後期の旗本であり、長沢松平家の18代当主として知られています。通称の主税助（ちからのすけ）、官名の上総介（かずさのすけ）の名でも知られています。

生涯

長沢松平家は、一度断絶したものの、分家から養子を迎えて再興されました。忠敏は、16代当主・松平親芳の三男として文政元年（1818年）に三河国長沢村（現在の愛知県豊川市）に生まれました。兄の養子となり家督を継ぎました。

講武所教授方としての活動

幼少より柳剛流剣術を学び、直井秀堅に師事しました。安政3年（1856年）、幕府が講武所を開設すると、剣術教授方に任命されました。しかし、忠敏は講武所での個人の武技鍛錬に留まる教育に批判的であり、武士には砲術訓練など団体行動の規律が必要だと考えていました。

浪士組との関わり

文久2年（1863年）、浪士取扱に任命され、浪士組の設立に関わります。これは、清河八郎の献策により、将軍上洛に伴う京都の警備を浪士に担当させるという企画でした。しかし、忠敏はすぐに浪士取扱を辞職し、その後再び浪士取扱に復帰、新徴組の支配を命じられますが、これも辞任しました。浪士組は後に新選組となり、幕末の動乱を彩る存在となっていきます。

その後

第一次長州征伐では、征討総督に任ぜられた徳川慶勝に加わるため、講武所の職を辞しました。大政奉還後には清水小普請支配を命じられますが、これも辞任しています。和歌にも堪能であり、歌道にも造詣が深かったようです。

明治維新後は御歌所の歌道御用掛となりました。

明治15年（1882年）に亡くなりました。

創作における松平忠敏

松平忠敏は、剣豪というよりも官僚的な旗本であり、浪士組に関わった期間も短いものでした。しかし、「柳剛流の使い手」「講武所の師範役」「浪士組の取締役」という経歴から、後世には剣客としての虚名が広まりました。講武所風と呼ばれる独特のスタイルが喧伝されたことも、そのイメージを増幅させました。

時代小説などでは、破天荒な剣豪として描かれることがあり、大佛次郎の『鞍馬天狗』シリーズや、吉川英治、司馬遼太郎の小説にも登場しています。NHK大河ドラマ『新選組!』では、日和見がちで俗物的な小役人として描かれました。

このように、松平忠敏は、史実と創作の間で様々なイメージが形成された人物と言えるでしょう。

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