松平近貞 (豊後国府内藩主)

松平 近貞

（まつだいら ちかさだ）

江戸時代中期に豊後国府内藩の第4代藩主を務めた人物です。官位は従五位下、主膳正、対馬守を称し、親清流大給松平家の第8代当主にあたります。

生い立ちと家督相続

松平近貞は、三河国田原藩の第2代藩主であった三宅康雄の三男として生まれます。生母は松平近陳の娘です。正徳2年（1712年）1月、母方の叔父にあたる府内藩第3代藩主・松平近禎の婿養子として松平家に入りました。享保10年（1725年）に養父・近禎が死去したことに伴い、府内藩の家督を継承し、第4代藩主となりました。

藩政の困難と財政危機

近貞が藩主となった頃の府内藩は、厳しい時代を迎えていました。特に享保年間は、日本各地で相次いで自然災害が発生し、いわゆる「享保の大飢饉」として知られる深刻な食糧難に見舞われました。府内藩も例外ではなく、飢饉の被害を受けます。さらに享保17年（1732年）には、ウンカなどの虫害により稲作に壊滅的な被害が出て、藩の根幹を揺るがす事態となりました。これらの度重なる天災は、府内藩の財政に急速な悪化を招きました。藩の運営資金は枯渇し、幕府から3000両もの借入を行って、なんとか藩の存続を図るという切迫した状況に追い込まれました。

追い打ちをかけるように、寛保3年（1743年）4月には府内の城下町で大火災が発生しました。城下は甚大な被害を受け、藩は復興のために再び幕府から2000両を借り入れざるを得ませんでした。相次ぐ災害とそれによる支出増により、藩の財政は完全に破綻状態に陥ってしまったのです。

財政再建への試みと挫折

破綻寸前の藩財政を立て直すため、松平近貞は様々な改革に着手しました。その中心となったのは、税制の改革でした。収穫量にかかわらず一定の税率を課す「定免制度」を導入し、税収の安定化を図ろうとしました。また、藩士や領民に対しては、非常に厳格な倹約令を発布し、無駄な支出を徹底的に抑えるよう求めました。さらに、藩内にいた富裕な商人たちに対して、臨時の財政支援である御用金を課すなど、なりふり構わぬ財源確保策を講じました。これらの施策によって藩財政の再建を目指しましたが、度重なる災害の影響は根深く、期待したほどの成果を上げることはできませんでした。

隠居と晩年

財政再建への取り組みが成果を見ないまま、松平近貞は藩政の運営に疲弊していったと考えられます。延享2年（1745年）9月18日、彼は志半ばで藩主の座を退き、長男である松平近形に家督を譲り、隠居生活に入りました。

その後、隠居から約12年後の宝暦7年（1757年）5月13日に、数え年で69歳でその生涯を閉じました。法号は雲晴院と称されます。松平近貞の墓所は二箇所にあり、一つは東京都文京区にある浄土宗の古刹、伝通院に、もう一つは大分県大分市にある浄土宗の寺院、浄安寺にそれぞれ営まれています。

系譜

父母
実父：三宅 康雄
実母：松平 近陳の娘
養父：松平 近禎
正室
松平 近禎の娘
側室
百樹院
子女
松平 近形（長男）
三宅 康之（次男、生母は側室・百樹院）
土岐 頼煕 正室
松平 近朝 室
松平 定秀 正室
堀田 一敦 室（後に島津 忠瑛 室）
宣遊院（加藤 泰宦 正室）
* 於只、証円院（阿部 正賀 正室）

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