伝通院

伝通院：徳川将軍家ゆかりの古刹

伝通院は、東京都文京区小石川に位置する浄土宗の寺院で、正式名称を無量山伝通院寿経寺といいます。徳川将軍家の菩提寺であり、江戸三十三観音札所の第十二番札所としても知られています。その歴史は室町時代に遡り、開山は浄土宗第七祖の聖冏によって、1415年に小石川の草庵にて開かれました。当初は寿経寺という名前でしたが、後に徳川家康の生母である於大の方の菩提寺となり、その法名「伝通院殿」にちなんで、伝通院と改められました。

将軍家の菩提寺としての歴史

1602年、於大の方が亡くなると、家康は母の遺骨をこの地に埋葬し、墓を建立しました。この際、寿経寺を移転し、堂宇を建て、伝通院と改称しました。当初、家康は増上寺に母を埋葬する予定でしたが、増上寺の住職の進言により、この地に寺を建立することにしたと言われています。1608年には堂宇が完成し、幕府からの手厚い保護を受けました。

江戸時代には、伝通院は寺領約600石を与えられ、多くの堂塔や学寮を有し、その威容を誇りました。最高位の紫衣を許され、増上寺に次ぐ徳川将軍家の菩提所として、江戸の三霊山の一つに数えられました。境内には徳川氏ゆかりの女性や子供が数多く埋葬されており、将軍家の厚い帰依を受けていたことが伺えます。寺は檀林（仏教学問所）としても機能し、最盛期には1000人もの学僧が修行していたと伝えられています。

幕末の動乱と明治以降の変遷

幕末には、新撰組の前身である浪士組が、伝通院の境内で結成されたという歴史的な出来事もありました。しかし、明治維新によって江戸幕府が倒れると、伝通院は庇護を失い、規模が縮小しました。廃仏毀釈運動の影響で、多くの塔頭や別院が独立し、勅願寺としての地位も沙汰止みとなりました。しかし、その後も浄土宗の寺院として、地域の人々に親しまれています。

文学と伝通院

伝通院は、多くの文化人にも愛されてきました。文豪・永井荷風は、幼少期を伝通院の近くで過ごし、随筆『伝通院』でその思い出を綴っています。夏目漱石も若い頃にこの近くに下宿しており、小説『こゝろ』で伝通院に言及しています。また、幸田露伴一家も伝通院の近くに転居し、現在も子孫が住んでいるなど、多くの文人がこの地を愛したことがうかがえます。

戦災と復興

1945年、東京大空襲によって伝通院は焼失し、江戸時代から残る山門や本堂なども失われました。戦後、本堂は再建され、現在の本堂は1988年に再建された鉄筋コンクリート造りです。2012年には、山門も木造で再建されました。

現在の伝通院

現在の伝通院は、静かな佇まいを残しつつ、歴史的な面影を伝えています。敷地内には指圧の専門学校があり、指塚が建立されています。春には桜が咲き誇り、夏には朝顔市が開かれ、地域の人々に親しまれています。

伝通院に眠る人々

伝通院には、開山である了誉聖冏をはじめ、徳川家康の母である伝通院、将軍家の側室や子供たち、幕末の志士である清河八郎など、数多くの著名人が眠っています。また、歌人の古泉千樫、小説家の佐藤春夫、デザイナーの榮久庵憲司、作家の堺屋太一など、各界の著名人もここに眠っています。

伝通院へのアクセス

伝通院へは、都営地下鉄三田線春日駅、または東京メトロ南北線・丸ノ内線後楽園駅から徒歩約10分でアクセスできます。拝観は無料で、時間は午前10時から午後5時までです。

伝通院は、歴史と文化が深く根付いた、都内でも有数の名刹です。その静かで落ち着いた雰囲気は、訪れる人に安らぎを与えてくれるでしょう。

参考文献

• - 斎藤長秋 編『江戸名所図会』

関連リンク

• - 傳通院ホームページ
• - 文京区による紹介
• - 永井荷風『伝通院』（青空文庫）

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