松浦重信

松浦重信（まつら しげのぶ）

松浦重信は、江戸時代前期に肥前国平戸藩を治めた第4代藩主であり、平戸松浦氏の29代当主です。初めは源三郎と名乗り、従五位下・肥前守の官位を有していました。隠居後には、曾祖父と同じ「鎮信」へと名を改め、こちらの方が広く知られています。文化人としても知られ、宋の文人である文天祥を敬愛し、天祥庵を結んで自らも天祥と号しました。晩年には退静爺、徳祐とも称し、法名は圓惠（円恵）です。

生涯

元和8年（1622年）に、3代藩主・松浦隆信の長男として江戸の藩邸で生まれました。幼名は千代鶴。

寛永6年（1629年）、3代将軍・徳川家光に初めて謁見しました。寛永12年（1635年）には従五位下、肥前守に叙任されています。

寛永14年（1637年）に父・隆信が亡くなり、同年9月7日に家督を継いで藩主となりました。同年、島原の乱が発生すると、幕府の命を受けて領国へ戻り、長崎奉行の指示のもと、手薄になっていた日見・茂木の警護を担当しました。板倉重昌の戦死後には、原城攻撃に松浦勢を参加させ、その功績により100石を加増されています。

乱後の寛永16年（1639年）には、元藩士の浮橋主水が平戸藩にキリシタンの嫌疑があると訴え出るという事件が起こり、幕府の調査を受けることとなりました。訴えは誣告とされ、浮橋主水は伊豆大島へ流罪となりましたが、平戸に立ち寄った松平信綱は、平戸藩がオランダとの貿易によって得た強力な兵備に驚き、幕府は平戸藩への警戒を強めます。寛永18年（1641年）には、平戸商館の閉鎖が命じられ、貿易港は長崎の出島に限定されることになりました。

これにより、当時最も豊かであった平戸藩は財政難に陥りましたが、重信は新田開発や畜産など様々な産業の振興に力を入れ、後に「九州第一の善治良政」と称えられるまで藩を立て直しました。

寛永20年（1643年）には朝鮮通信使を壱岐国で歓待し、正保2年（1645年）には領内で見つかったキリシタンを追放しました。承応元年（1652年）には、平戸に天台宗の樹光寺を創建しています。万治元年（1658年）には再び領内でキリシタンが見つかり、その弾圧を命じられて60名余りを斬首し、幕府から賞賛されました。

明暦2年（1656年）には、重信家訓四十五条を定め、諸有司の職務十七条を定めました。

寛文4年（1664年）には、従弟の松浦信貞に1,500石を分与したため、平戸藩の石高は6万1700石となりました。寛文8年（1668年）には高力隆長が島原藩を改易となり、幕府の命で小笠原長勝と共に島原城の接収役を務めました。

貞享2年（1685年）9月には詰衆となり、雁間に列しました。元禄2年（1689年）3月2日には奥詰に進みますが、病により職を辞し、7月に隠居して嫡男の棟が家督を継ぎました。また、次男の昌に1万石を分与し、平戸新田藩を立藩させました。同年8月には剃髪し、諱を鎮信と改めました。

元禄16年（1703年）10月6日、向島の別邸にて82歳で亡くなりました。墓所は本所天祥寺にあり、戒名は天祥院殿慶厳徳祐大居士です。

人物

重信は学問を好み、神道を橘三喜、吉川惟足に、天文を秋山忠右衛門、横川才菴に、国典漢籍を文庵、玄覚に学びました。禅は隠元、木庵、道者超元、沢庵に師事し、法話を盤珪禅師、周易を不破慈庵に、書道を里村玄陳に学び、蘭学にも通じました。特に茶道を愛好し、様々な流派の茶人と交流し研究を重ねた結果、片桐石州や藤林宗源に師事して石州流の皆伝を受け、独自の流派である鎮信流を創始しました。重信は、藩主としての行政手腕のみならず、文化人としても高く評価されています。

また、家臣から諸将の逸話を聞き書きした『武功雑記』を著しました。

交流

儒学者の山鹿素行とは親交が深く、その助言をよく聞いていました。素行の死後には、その子である山鹿平馬を1000石で召し抱えています。

また、素行を通じて吉良義央とも交流があり、吉良氏秘伝の『吉良懐中抄』が松浦家に伝わり、その写しが現在も平戸市に現存しています。

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